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95.蒼、大物に会う3
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圭はしばらく不在だ。
海外に行っているのである。
あっちではショルに会ってくると話していた。
今頃、会えているかな?
そんなことを考えながら、帰宅の準備をしていると、ふと水野谷が手招きをしているのに気が付いた。
「お、おれですか?」
「そう。蒼と三浦。ちょっと」
「え!おれもっすか?」
三浦も腰を上げる。
二人は水野谷のところに行くと、彼はにやにやして二人を見つめた。
「なんでしょうか?」
「気持ち悪いっすよ。課長」
「これからお前たちに嬉しい仕事を上げよう」
「なんです?」
蒼と三浦は顔を合わせる。
「出張だ」
出張?
「関東圏のとあるホールの視察をしてきて欲しいんだ」
「おれたちがですか?」
「そうそう。二人で」
星音堂で出張は珍しい話しだ。
他の職員も手を止めて話しを聞いている。
星野が手を上げた。
「どういう意図があるんですか?そこには」
「さすが、星野。鋭いな」
水野谷は、一同に聞こえるように話しをする。
「この星音堂も、今回の件ではかなりのダメージを受けた」
今回の件。
金子の事件である。
「結局、マエストロの助けにより、客は戻って来たが、やはり、星音堂の運営体質自体を見直す時期なのではないかと本庁のほうで話しが出ているのだよ」
それは当然の話しかも知れない。
今まで、実質、星音堂は野放しだったようなものだ。
ホール自体がいいものだったおかげで、利用率はかなりよかった。
星音堂職員として、いろいろな工夫はしていたものの、本庁からの研修や出張の強化などの話しは一つもなく、試行錯誤で職員たちが行なっていたものばかりだ。
結局は素人考え。
文化祭などは好評を得ているが、他のことに関しては、取り組んではやめ、取り組んではやめを繰り替えしている状況だった。
氏家は言う。
「はっきり言って遅すぎやしませんか?」
そこに気付くのに。
水野谷は笑う。
「そうだな。こんな瀬戸際に来て、研修もなにもないと思うが」
民間に委譲する前に、なんとか職員のベースを上げておこうと言う魂胆なのか?
お役所の本庁が、そこまで考えるとは到底思えないのだが……。
蒼は水野谷の顔を見て、ふと、このたぬき親父が仕込んだことじゃないかと思う。
彼は結局のところ、本庁に戻る身だ。
だから、職員たちに迷惑が掛からないように。
民間のホールの運営なども見せようって魂胆かも知れない。
親心なのか、なんなのか。
結局は、水野谷の力が90%くらい反映されている気がしてならなかった。
「ホールの視察は各職員に経験してもらう予定だ。第一弾として蒼と三浦の若手に行ってもらう。次の予定もすでに決まっているので、順次、通知をするので。よろしく」
彼はそれだけ言うと、出張の書類を蒼に渡した。
「これをよく読んで。質問があればいつでもどうぞ」
「ありがとうございます」
蒼は書類に視線を落とす。
三浦も同様の行動をとった。
「わー!新幹線で一泊っすよ!」
「泊まり!?」
「2日間。みっちり見学してくるようにな」
「そんなにいけるんですか?」
尾形はどれどれと寄って来る。
「課長、ふとっぱら過ぎやしませんか?」
「遊びじゃないんだから。しっかり勉強してくるようにな」
「はい……」
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