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96.二人旅5
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夕方。
すべての研修を終え、二人は宿泊施設に向かった。
南が手配してくれたタクシーに乗せられて。
「本当に素敵なホールだったな」
蒼は三浦に話しかける。
「おれは、星音堂が一番だって思っていたけど、上には上がいるっていうか、なんていうか」
一人で感動している蒼。
しかし、三浦の反応はない。
「三浦?」
蒼はふと彼に視線を向ける。
彼はなんだか青い顔をしていた。
「三浦?どうしたの?」
「うう、蒼ちゃん、おなか痛くないっすか?」
「え?痛くないけど……」
「な、なんなんだろう……。腹が痛いっす……」
「え!?」
蒼はあわててタクシーの運転手に急ぐようにお願いする。
三浦は冷や汗をかいていた。
前かがみで思う様に歩けない彼を連れ、ともかく宿泊ホテルにチェックインする。
フロントで、常備薬の胃腸薬をもらい、なんとか部屋に入るころには、彼は本当に具合が悪そうだった。
「どうしたんだろうね?なにか食べたかなあ……」
今日は早朝から一緒に過ごしている。
大概、同じ食べ物を食べているが……。
大概?
「あ」
思い出した。
「昼の刺身じゃない?」
お昼に出たお弁当に刺身が入っていた。
蒼はお弁当に入っている生魚は苦手で残したのを、三浦が食べてくれたのを思い出す。
「おれの分まで食べているからだよ。まったく」
「だって、ここって海の近くじゃないっすか。おれ、刺身好きなんっす……」
ベッドの上で苦しんでいる三浦は不憫だ。
「なんとかしないとね」
胃腸薬は飲んでみたものの、なんとも仕方がない。
蒼はフロントに事情を説明した。
すると、どうやら困ったことがあると往診をしてくれる医師がいるとのことで、その医者をお願いすることができた。
食あたりなら、医者に診てもらったところで、水分補給の件と整腸剤かなにかを出されて終わりだろうが、このままにしていて、なにかあっても自分は責任が取れない。
できることはしておいたほうがいいと思った。
なにせ、今回の研修中の責任は蒼が負わなければならないのだから。
「お医者さん、来てくれるって」
蒼の返答に、三浦の表情が和らぐ。
彼にとっても安心材料になったようだ。
蒼は少しほっとした。
「大丈夫?トイレは?」
「もう少し我慢してから行くっす」
「こういうときまで我慢することないのに」
なんだか笑ってしまう。
「大丈夫?」
「あの」
「ん?」
「決して関口さんのおにぎりじゃないっすからね」
それはそうだ。
おにぎりは大丈夫だった。
自分も食べたもの。
細菌学者じゃあるまいし。
三浦に渡ったおにぎりだけ意図的に悪いものを仕込むなんてできるわけがない。
蒼は、目を光らせておにぎりを握っている圭を想像して笑ってしまった。
「大丈夫。人の心配よりも、自分の心配をしていなよ。こういうときっておなかから意識を離すと、結構やばいよね」
「うう……そんなことを言わないでくださいよ!」
ひーひー言っている三浦は不憫だった。
そんなこんなしている内に、医者が到着したとフロントから連絡が入る。
やってきたのは高齢の医師。
彼はよく見えているのか、見えていないのか。
細い目をよけいに細くして、三浦のおなかを見たり、脈を見たりしてくれた。
結局、点滴などの処置が必要な様子だが、ここでするのもなんだしということで、市販されている経口補水液を数本おいてくれた。
そして、整腸剤も。
しばらくはおなかをあったかくして安静にしているような指示がだされた。
付き添ってきた看護師も年配だ。
あっちこっち触れて、三浦は不満そうな顔をしていた。
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