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99.訣別5
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その日の夕方。
17時15分。
水野谷が時計を見て咳払いをした。
一同は、はっとして顔を上げる。
もう終わりの時間か。
「やったー!終わりだ!!」
尾形が大きく伸びをする。
いつもの光景だった。
氏家もパソコンを閉じて席を立とうとする。
と。
水野谷が声を上げた。
「みんな。定時だが。ちょっと話があるんだ」
「なんですか?課長―!」
「もう仕事終わりっすよ」
「雪なんだから早く帰りましょうよ」
一同がざわざわしているのを制して、彼は蒼を見る。
「蒼」
急に、蒼の名前が出たので、みんなは一斉に彼を見た。
「なんだよ?」
「なに?」
蒼はずっとうつむいていた。
ぎゅっと手を握り締めて。
泣いている?
星野はぎょっとした。
「どうしたんだ?お前?」
さすがに言葉に詰まる。
蒼は、そろそろっと立ち上がると、みんなに頭を下げた。
「長い間。……お世話になりました」
「へ?」
「なんの話?」
そこで、水野谷が蒼の隣に来て、彼の肩に手を置く。
「蒼は今日で退職だ」
「はあ!?」
「な、なに言ってんっすか?課長!?」
三浦は声を荒くする。
そんな!?
彼にとったら大ショックだ。
「そう怒るな。一番、辛いのは蒼なんだから」
水野谷はうっとおしそうに手を振った。
「本当に、お世話になりました」
「荷物はおれが後でまとめて送ってやるから。今日はともかく帰れ」
水野谷の言葉に、彼は小さく頷くと、みんなの顔を見渡す。
涙いっぱいの蒼の表情に、職員たちは言葉を失った。
本当の話か?
本当なのだ。
蒼は今日で……。
「し、失礼します!!」
蒼はいたたまれなくなって、事務室を駆け出す。
もう、なにがなんだかわからなくなった。
「蒼?!」
みんなの声が背中越しに聞こえたが、振り返ることも出来ずに星音堂を飛び出したのだった。
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