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100.春3
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4月。
新しい季節である。
「……新しい人。くるんですかね?」
三浦はぼーっとして呟く。
「そうだな……」
その隣にいる吉田もふと、視線を前に移す。
ぽっかり空いている席。
お日様みたいな男が座っていた席だ。
つい先日まで、パートの女性が座っていた。
星音堂に女性が来たのは初めてだったという。
だけど、彼女も新しい就職口が決まって春からは姿を見せない。
「……」
恒例のことだ。
向こうの廊下から、ダダダダと重い音が響く。
そして、太った男が顔を出した。
「き、来ました!」
またか。
星野は苦笑した。
新しい職員がくるといつも尾形が偵察に行くのだ。
水野谷に知られているというのに。
よくやるものだ。
尾形の声からちょっとして、水野谷が姿を現す。
「また、お前」
入口に突っ立っている尾形を見れば、なにをしていたかは一目瞭然だ。
「すみません」
水野谷がやって来たので、氏家、高田が立ち上がる。
それに釣られて、吉田、三浦、そして星野の順だ。
尾形も自分の席についた。
「お待ちかねだ」
水野谷は苦笑して、後ろからついてきた男を促す。
一瞬。
職員たちは目を見張った。
蒼?
蒼なのか?
「蒼ちゃん……?」
三浦はつぶやく。
小さい影。
ぴょんとはねた髪型。
まさか!?
そう思ったが、それは思い違いらしい。
暗いところから顔を出した男を見て、一同はため息を吐いた。
違う。
違う男だ。
男は、職員たちの雰囲気も解らないくらい緊張しているようで、一生懸命に頭を下げた。
「篠崎佐重です!よろしくお願いします!!」
若いのに。
おじいちゃんみたいな名前。
氏家は吹き出す。
「面白い名前だね」
「うちのじいちゃんがつけてくれた名前で……」
おっちょこちょいで。
なんとなく蒼を彷彿させるタイプ。
わざとこういう子がチョイスされているのだろうか?
星野は水野谷を見る。
彼は淡々と説明を行う。
「篠崎は今年大学を卒業して、ここに派遣になった。星音堂が大好きなようで、わざわざ物好きなことで。ここを希望した」
「本当に物好きだな」
星野もつぶやく。
市役所に入って、好き好んで、ここにくる輩はそうそういない。
ゼロに等しいはずだ。
「なんでここが好きなの?」
氏家はにこにこして質問をする。
「お、おれ。高校のときに部活でここにお世話になることが多くて。市役所職員になると、ここで働けるって教えてもらったので、ぜひ、ここで仕事をしたいと思いました!」
市役所職員が目的ではなく、星音堂の職員が目的だったとは!
一同は顔を見合わせて苦笑する。
まっすぐで、単純で。
蒼みたい。
三浦は目を細める。
蒼はいったいどこに行ってしまったのだろう。
ため息しか出なかった。
「じゃあ、恒例で。今回の教育担当は三浦な」
「あ、そうでした!」
水野谷は三浦を呼びつけて、篠崎と対面させる。
「お前のすぐ上になる三浦光だ。篠崎、なにかあったら三浦に聞くように」
「よろしくお願いします!」
慌てて頭を下げる篠崎。
一瞬、蒼に見えて、目を擦る。
いかん、いかん。
こんなんじゃダメだ。
三浦は「よろしく」と頭を下げた。
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