アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
104.夏1
-
梅沢の夏は厳しい。
盆地。
盆地なのだけど。
「どうして、こうも暑いんでしょうか?」
吉田は机の上に突っ伏して音を上げる。
いつものことながら、これは毎年の風景だ。
「暑い、暑い、言うなよ」
節電の夏ではないが、クーラーも温度設定が高めだし。
パソコンにつなげる扇風機が、ごーごーとあちこちで鳴っている。
そんな中、篠崎だけはせっせと仕事をこなす。
「中ホールの掃除、終わりました!」
彼は軽く汗をかいて事務所に入ってくる。
「三浦は?」
「三浦さんは、ちょっと休憩だそうです」
中ホールの外のベンチでだれている三浦が想像できる。
パソコンを眺めながら、星野は苦笑する。
なんだかんだ言って、篠崎は慣れてきている様子だ。
いい傾向である。
いつまでも、よそよそしいままでは可哀想だ。
蒼のこと。
忘れた訳ではないけど、篠崎は篠崎としてのキャラクターを受け入れてきているのがよかったと思われた。
「篠崎ー……。アイス買ってきて」
尾形の冗談にも「わかりました!なにがいいですか?」と真面目に切り返す彼。
蒼とはまた違った一面だ。
「冗談に決まっているだろうー。アイスを職務中に食べていたなんて言ったら、課長に怒られちゃうもん」
尾形はうちわであおぎながら苦笑する。
「すみません」
「お前が謝ることじゃないんだから。尾形が悪い」
いつもひねくれている高田も、篠崎にはなんだか優しい。
純粋なキャラクターが好感を得ているらしかった。
そんな中、星野はせっせとパソコンを打っている。
「なに真面目に仕事してんだか」
「真面目っていうか……」
星野はごまかしながらもネットにくぎ付けだ。
毎日の恒例。
蒼探しのネットサーフィンだ。
ネットだけではない。
定期的に蒼の実家にも電話を入れたりして様子を見ているが、いい返答は得られなそうだった。
自分のパソコンにメールが届いているのを見て、そこをクリックする。
相手は圭だった。
『星野さん、元気ですか?こっちもみんな元気しています。(けだもも)こっちでも探しているけど、蒼のあの字も見かけないほど、あいつ、姿を隠しているみたいで。なかなか見つかりません。仕事もなかなか忙しくなってきているので、大変だけど。自分がこうしていれば、いつかはあいつに会えるんじゃないかって……。なんとかやっています』
「おれなんかよりも近くにいると思うと、余計にもどかしいだろうな……」
星野はぼそっとつぶやいて、続きを読む。
『ともかく。8月に日本に帰る機会があるので、その時、星音堂に寄りますね。星野さんも元気で!』
なんとも。
せっかくメールが来ても、なんの情報も見つけられていない様子だ。
興信所なんか頼んでも、海外にいるかも知れない人材を見つけられるのだろうか?
田舎の興信所じゃ、大してあてにもならないだろう。
羽根田みたいな大企業の秘密を暴ける人がいるとは思えなかった。
なんとも進歩のない状態で、8か月も経とうとしているようだ。
「星野さん!」
ふと大きな声が響いたので、顔を上げると、篠崎と尾形がこっちを見ている。
「はい?」
「今、氏家さんからお許しが出たので、アイス買に行ってきます。なに食べたいですか?」
篠崎と?
「あれ?尾形も?」
「おれは、冗談言った罰則ですって。行ってきます」
尾形はふうふう言っていて気の毒そうだが。
ちょうどいいだろう。
いい運動だ。
「おれ、チョコ」
「チョコならなんでもいいですか?」
「いいよ」
「じゃあ、行ってきます!」
篠崎は元気に事務室を出ていく。
その後ろをとぼとぼついていく尾形は可哀想に見えた。
「はー……」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
796 / 869