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105.恋を患う9
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「おれもこの写真は見させてもらったが。なにせ、似合わんっ!蒼にはこんな仕事は似つかわしくないのだ。田舎でごっこ遊びをしている程度が蒼には似合っている」
言葉は悪いが、星音堂にいたときの蒼が輝いていたという表現らしい。
圭一郎らしい言葉に、なんだか笑ってしまう。
「蒼さんはお元気です。大丈夫。きっと会えますよ」
有田はそういう。
少しくじけそうになっていたのは事実だ。
蒼の、少しでも存在が感じられれば頑張れるのだが。
普通に活動していれば、逢えると思っていたのに。
「ありがとう……」
圭一郎と、有田はくすっと笑う。
圭が素直に感謝の言葉を述べたるのは珍しいことだ。
笑ってしまう。
圭は嬉しそうに書類を抱えると、自分の部屋に向かう。
それを見送って、圭一郎と有田は顔を見合わせた。
「参っている様子ですね」
「結構なるからね」
圭一郎はため息を吐く。
「うまく隠れおおせているね。蒼は」
「苦労しました。羽根田のコネ、そうそうないですからね」
「羽根田の仕事の一つでも引き受けたら、あの子に会えるのだろうか?」
「それはどうかわかりませんね」
彼はメガネを擦りあげる。
「羽根田のほうも警戒している様子です。彼の側についている秘書が敏腕女史で、蒼さんの過去についてはすべて調査ずみ。彼の日本での関係者の接触を120%カットしている状況のようです」
「なるほど。じゃあ、羽根田の仕事を引き受けても」
「それは蒼さんの耳には入らないようになっており、打ち合わせなどにも彼とは別のスタッフを派遣しているようです」
「厳重だねえ。そんなに過敏になる必要があるのかな?」
「大財閥のトップと直接血のつながった存在ですからね。羽根田の家の内情を調べてみると、娘三人は、こっちの世界には全くの興味がない様子で、ほとほと困っている様子です」
「そんなこと言ったって。蒼だって興味なんかないだろう?」
「それはそうですけど……」
圭一郎は苦笑する。
「子供というものは思い通りにいかないものなのだな」
「それはどこも同じ話のようですね」
有田も笑う。
圭一郎のことを言っているのだろう。
「家は思い通りに行っているほうなのだろうか?」
「それは分かりませんが……」
親の思い通りの子供なんて、ただの傀儡でしかない。
意思を持って、自分の好きにやるのがいいのは分かっているが。
自分とは違って、背負うものが大きいと、大変なのだろうと思う。
羽根田がかわいそうな気がした。
彼だって辛かろうに。
突然、知ったとはいえ。
自分の息子の希望や夢を閉ざしてまで、自分のエゴに子供を付き合わせるのは親として切ないに決まっている。
誰が見たって、蒼は圭といたいという願いがあるのは分かっていることだからだ。
「まあ、こっちも地道にやってみようか。息子はかわいいからね」
圭一郎の言葉に有田も頷く。
「そうですね。圭くんの隣にいる蒼さんをしばらく見ていないので、なんだか落ち着かないです」
「それはそうだ」
圭一郎は有田が作ってくれた書類のコピーを眺めた。
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