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109.路地裏の邂逅5
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その頃。
蒼は圭のことを思っていた。
セバスティアンの前であんな醜態を見せてしまうだなんて。
我ながら、追い込まれていることに気付いている。
しかし、どうしようもないのだ。
自分で決めたくせに。
最後まで貫けないだなんて、始末に悪いと思ってしまう。
早めに戻ってきたのから、出発の時間いは余裕で間に合うが。
彼女にはばれているのだろうか?
無断外泊。
バルコニーから見える庭は青々としている。
だけど、日本のそれとは違っているのだ。
植えられている植物の種類が違うせいなのだろうか?
植物一つとっても、日本ではないことを思い知らされる。
日本に帰りたい。
もうこんな生活は限界に近い。
慣れないことだらけだし。
人にも慣れないし。
イライラが募ってくると、首裏が痛む気がした。
と。
どこかで電子音が鳴っている。
携帯であると認識していても、したくない気持ちがあり、耳をふさいでしまう。
面倒だけど。
仕事上、携帯は絶対に出ないと後で困るのは自分っていうことがよくわかってきたところだったから。
蒼は大きくため息を吐いて、バルコニーから部屋に戻る。
そして、机の上に放りだされている携帯を取った。
『はい、熊谷です』
英語で答えるのが日課になったこの頃。
聞こえてきたのは日本語だった。
『蒼?元気している?』
相手は。
「社長」
章だった。
蒼は絶対に章を「お父さん」とは呼ばなかった。
彼は苦笑してから『馴れたかい?』と続けた。
「慣れるなんてとんでもないです。毎日が新しいことで、目が回りそうですよ」
蒼の返答は彼の予想通りだったらしい。
章はさらに笑っていた。
『蒼は予想通りのことを言ってくれるから楽しいね』
「予想通りですみません」
厭味ではないけど、なんだか章は、なんでも蒼のことをお見通しみたいで面白くなかった。
『来週、そっちに行くんだ。仕事の様子とか見せてもらおうと思ってね』
「来週ですか!?」
突然だろう。
なにもまとめていない。
『そんなに緊張しないで。成果を出してなんて思ってないよ。ただ、蒼の仕事を見てみたいだけだから』
悪気はないのだろうけど。
自分の立場をよく理解して話をして欲しい。
社長が来るということは、こちらはてんてこ舞いになるということだ。
蒼は落胆した。
まあ、まとめは奥川がしてくれるだろうけど。
『楽しみにしているね』
それだけいうと、電話は切れた。
「はー……」
本当に、本当についていない日。
ついていない日だった。
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