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111.父と息子6
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章の滞在はあっという間に過ぎていく。
夜。
蒼の自宅での会食。
今日は、ここに泊まっていくように伝えたが。
章はホテルに行って、その足で帰ると話していた。
この会食が今回の最後になるわけだ。
会食の内容は和食。
蒼とお手伝いさんたちの成果だ。
奥川もいないし。
親子水入らずって、なんだか気恥ずかしい。
章も仕事の顔から、プライベートの顔に戻っていた。
「奥様たちはお元気なんですか?」
なにを話したらいいかもわからないし。
ともかく、家族の話題を振ってみる。
「美紀は元気だよ。自分の好きなことばっかりやっているみたい」
章は苦笑する。
「娘たちは勝手気ままだ。どこにいるのかもわからない子もいるくらい」
「そうですか」
羽根田の恩恵を受けると、好きなことができるのだろう。
うらやましい限りである。
「でも、こんなことを言ったら本当に不謹慎だけど。空と結婚できていたら、どうなるのかなって思ってしまうよ」
「へ?」
「空はどんな妻になっていただろうかと。蒼の次にどんな子が生まれていたのかなって」
「……」
空は。
羽根田と結婚していたら、そんなに病まずにいられたのだろうか?
結局は同じなのではないだろうか?
蒼の下に兄弟がいた?
なんだか変な感じ。
熊谷家の人たちとも会うこともなかったのだろう。
「もう考えても仕方がないことです」
「蒼は冷たいねえ」
「冷たいだなんて」
「蒼だって、忘れられないんだろう?関口くんのこと……」
「それは……」
「関口くんとはどうやって知り合ったの?」
章は優しく笑う。
「星音堂です」
そうだよね。
あの場所で……。
こんなことを話さなくてもいいはずなのに。
きっと、章はいろいろ調べていてしっているはずなのに。
「彼は市民オケのコンマスをやっていました。彼自身、星音堂が子供のころからの思い出の場所で。事務の人たちとも知り合いだったので。よく顔を出すようになって……」
「で?」
「でって……」
「どうして一緒に住むことに?」
「えっと……。当時、圭は市民オケや、ヴァイオリンの講師とかで、こっちにくる回数が頻繁だったんです。なので、こっちに拠点を置いて、東京に通ったほうがいいのではないかと判断したとかで。でも、お金もなくて。で、たまたま知り合ったおれのアパートに居候したいって言い出して」
「ほぼ初対面の人の家に住まわせてくれって、ずいぶん勇気ある発言だね」
確かにそうかも。
あのときは、びっくりして、なんだかわけがわからなくなって。
圭の勢いに押されて……。
「その時から、関口くんは、きっと蒼が好きだったんだろうなあ」
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