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112.圭の休日1
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今日はオフだった。
いや、厳密に言うと、一日オフではない。
朝一で、高塚に呼び出されて人に会っていた。
今度のリサイタルでピアノを担当してくれる人と面会するためだ。
相手が誰だか聞いても、高塚は教えてくれないから。
なんだか腑に落ちない気分で、待ち合わせ場所に行ってみると、そこには見知った人がいた。
そこにいたのはミハエルだったのだ。
ご存じの方もあろうが、彼は圭が世の中に出る足がかりになったゼスプリ音楽祭のときに、相棒になってくれた男だった。
しばらく、農業にいそしんでいて、現役からは外れていたのだが。
彼がまた圭の伴奏をしてくれることになったのだという。
ミハエルは桜の相棒をしていて、彼女が引退したときに、自分も身を引いていたが……。
今回、どういう風の吹き回しなのだろうか?
高塚の説得がよかったのだろうか?
圭の伴奏をしてくれるということだったのだ。
音楽祭のときもすごくお世話になったし、彼との音楽づくりは楽しかったことを思い出した。
あのときは、コンクールでのことで精一杯で、なかなかゆっくりと音楽作りができなかったので、今回はゆとりを持って取り組めそうだ。
なんだか気分のいい休日になりそうだった。
夕方からはルルの復活コンサートがある。
高塚も誘ったが、珍しく断られた。
彼だったら、きっと食いついてくると思ったのに。
「おれ、ちょっと用事があるから……」
彼はそう言って、打ち合わせが終わると、ミハエルを連れてさっさと消えていった。
珍しいことだ。
オフの日は、彼もオフだったりする。
そうすると、ランチくらいは一緒にしたりするのだけど……。
圭は今日をどう過ごすか、考えていた。
ルルの演奏会は、アパートの近くの会場だったので、開場ぎりぎりに入ってもよさそうだ。
どうせ、指定されている席だし。
有田からもらったチケットは、いい席だった。
個室。
ここに一人とは、なんとも贅沢である。
圭一郎も一緒かと思っていたが、彼は彼でルルとの付き合いもあるので、別だということだったし。
一人で彼の音楽を堪能できるのかと思うと、なんとなくわくわくした気分になった。
それまでの時間は、どうしようか。
少しショッピングにでも出るか?
いや。
そんなことをしているのだったら、いつものペースで過ごした方がいい。
そう思った圭は、アパートに帰宅した。
圭のオフは筋トレに始まる。
音楽家で筋トレ?と思われるかもしれないが、安定した音楽を引きこなすには強靭な肉体が要求されるのだ。
オーケストラのヴァイオリンだって、下手すると1時間は弾き続けている。
ソロで活動している彼にとったら、体力作り、身体作りは必要なものなのだった。
けだもが見ているのをよそに、トレーニングウェアに着替える。
そして、お気に入りの音楽を聴きながら、正味1時間はジョギングだ。
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