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112.圭の休日2
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身体を鍛える方法は二つ。
ジョギングなどでの体力の維持。
もう一つは、自分の思う通りに動くように、筋力アップを行う。
ジョギングが終わると、少し休憩して、それから筋力アップ。
ダンベルを片手に楽譜を見ながらのそれ。
いつもの日常だ。
けだもも、もの珍しいわけではない。
ベッドの上でくるんと丸まって昼寝をしながら、圭の様子を時々うかがっている様子だった。
いつもは一人だから、圭がわさわさしているのが気になるのだろう。
何度も寝方を変えて、ごろごろしている。
「悪いね。けだも」
彼の様子に気づき、苦笑する。
けだもは「にゃん」と短く鳴いて圭を見ていた。
猫は犬より頭が悪いというが、圭はそうは思わない。
けだもは賢い。
自分の言葉を理解しているようにも取れる。
蒼がいなくなったことも理解しているようだし。
圭がさみしい思いをしていることもわかっているようだ。
時々、彼がいてくれて救われると思うことがある。
けだもまでいなくなってしまったら。
圭は本当に途方に暮れているところだろう。
孤独とは、こんなにさみしく、辛いものだったのだろうか?
蒼と過ごした時間は、本当に宝物みたいに思えた。
思い出は美化されているというが……。
それだけではないと思う。
事実、蒼との時間は、圭の人生の中で最も幸せで、最もすてきな時間だったのだから。
「あれ?」
今のはなんだ?
圭はダンベルを止める。
「なに過去形にしてんだよ」
過去形にしてはいけないのだ。
自分たちには、これからの時間もあるはず。
そう信じている。
だけど、1年も経ってくると、本当にそうなのだろうかと不安になる。
信じているだけで、本当に救われるのだろうか?
本当に?
大丈夫?
このまま一生、蒼に逢うことができなかったら。
同じ時間を共有することができなかったら。
どうしよう?
叶いもしない希望を胸に老いた自分を想像して、自嘲してしまう。
「さみしい老人になるのかな?」
自分は年老いたとき、どんな環境にいるのだろう。
ルルのように、引退しようと決めるときもくるのだろうか?
圭一郎のように、生涯現役でいられるのだろうか?
彼はいい。
かおりに支えられている。
彼女よりも長生きするとは思えないし。
きっと、愛されて、みんなに囲まれて幸せにあの世に行くことだろう。
自分はどうだろう?
もし、このまま一人でいたら?
蒼の替りに、自分の人生に光を与えてくれる人と知り合うのか?
蒼じゃない人と……。
「考えられないな」
蒼以外の人と、自分がまた気持ちを通じ合わせることなんか不可能だ。
そんなときがくるなんて考えたくもない。
「いやいや。信じよう」
まだ一年じゃないか。
圭の葛藤に気付いているのか。
けだもは、じーっと彼を見ていた。
圭の心の迷いは分かる。
くじけそうになる気持ちもあることだろう。
だけど気持ちを強く持たないと。
ダンベルを終了し、圭はため息を吐いた。
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