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112.圭の休日9
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遠く離れた日本。
星音堂。
昼食も終わり、午後の転寝にはちょうど良い時間。
14時過ぎ。
みんながとろんとした顔をしていた頃、携帯がけたたましくなった。
一同はびっくりして顔を上げる。
「な、なんだ、なんだ!?」
水野谷が声を上げた。
すると、星野が「すみません」と言いながら席を立つ。
「仕事中だぞ」
「すみません、緊急事態です」
彼はそう言うと、携帯を持ってそそくさと事務所を出た。
「緊急事態ってなんだ?」
水野谷の言葉に、一同は顔を見合わせる。
「ともかく緊急なんじゃないですか?」
吉田の回答に、水野谷は「そんなのはわかっている」と答えた。
「もしもし。星野だけど……」
彼はそそくさと寒空の中、外に出る。
朝に積もった雪が、昼間のお天気で溶け出している。
あたりはぐちょぐちょになっていて足場が悪かった。
『今日、再会されました』
相手は女性。
彼女はぶっきらぼうにそう言った。
「え?」
『ですから。お望み通りですよ』
「本当かよ!姉ちゃん」
『その姉ちゃんって呼び方はやめていただけます?』
「ああ、悪りぃ。奥川さん」
『名前で呼ばれるのもなんだか気持ちが悪いのですが……』
「悪かったね」
星野は苦笑する。
どうやら、彼女とは根っから合わないらしい。
「でも。本当にありがとう。助かったよ」
『……本当に。蒼さんのまわりの人は……。気持ちが優先して後先考えない人ばっかりなんですから。調子がくるってしまいます』
「回りって?」
『あなたがたや関口さんや、マエストロですよ!』
彼女は苛立っている様子。
自分に理解のできない人種だとでも言いたいのだろう。
星野は笑う。
圭も頑張ってたんだろう。
そして、彼らを見守っていた圭一郎たちもまた……。
「今度、ちゃんと礼するからさ」
『お礼をされる義理はありません。私が勝手に決めたことです。ただ……ずっとしつこく頼まれていたことですから。一応、報告だけは入れておきます。それでは』
彼女はそう言うと、携帯を切った。
星野は携帯を見て、にやにやする。
素直じゃないんだから。
彼女が、蒼や圭を見ている周囲の人に動かされたことは事実。
こんなことをするはずじゃなかったのにって気持ちで自分に腹立つんだろうな……。
なんとなくわかる。
そして。
「やったーッ!」
星野は寒空に向かって一人万歳をする。
あの二人。
会えたのだ。
どうするのかは決まっている!
大丈夫だと信じて。
胸のつっかえが取れて、本当にほっとした。
と。
視線を向けると、事務室の窓辺に職員たちが張り付いている。
水野谷まで。
「は……ッ」
みんな、星野がおかしくなったとばかりに心配そうに、口をぽかんと開けてみていた。
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