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君はどこから
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「えっと……なんか急にお兄さんの家に来てしまってごめんね。それに自己紹介がまだだったよね。ぼくの名前はレオ・ナヴァール。お兄さんは?」
今しがた勝手にはしたない妄想をして、正気に戻ろうと壁に頭を自ら打ちつけていた姿を見られて恥ずかしくなり、顔を真っ赤にした勇だったが、少年はそれほど気に止めずしっかり自己紹介してくれたので、少しホッとした。
「おれは田中勇。さっきはその……君を女の子と勘違いしてごめん。君は、外国の人?」
「女の子に間違えられることは慣れてるから、そんな気にしなくていいよ(笑) ぼくは魔界からきたんだ。と言っても信じてくれる…かな?」
勇は聞き慣れない場所に困惑した。
「ん? マカオ?」
「違う。魔界。ここ人間界とは別の次元にちゃんと存在しているんだ。もっとも、魔界から人間界に干渉することはできても、人間界から魔界には基本的に干渉できないから、大きくの人間界の人々には認知されてないけど。」
勇はレオが理解しがたいことを言うものだから、ポカンとしてしまった。でも雰囲気的に自分をからかって言っているわけではなさそうだと思った。
「なんでぼくが魔界からここへ来たのかと言うと…その…いわれのない罪によって、流刑になったんだ。その流刑先が人間界に決まって、どこに着地するかはランダムらしく、たまたま着いた場所がお兄さんの家のお風呂場だったみたいなんだ。」
続けてレオの話を聞いた勇は、これはおそらく、思春期特有の中二病的なものだろうと思い、優しく言った。
「魔界かぁ。またとんでもないところからきたね(笑) でもこんな大人の男の家にいたことがご両親や学校に知られたら大変だから、そろそろ家に帰ろう。近くまで送っていくよ。濡れた服はクリーニングしてまた返すから。」
レオは少し悲しい表情を交えた笑顔で答えた。
「やっぱり信じてくれないよね。ちなみに両親は流行り病で亡くしたんだ。姉さんはいるけど、今はどこにいるか分からない。」
勇はそれを聞いて、言葉を詰まらせた。魔界云々はともかく、家族がいないことは本当かもしれないからだ。一瞬見せた悲しい表情が嘘を言っているようには見えなかった。
もしかしたらこの少年は、どこかの施設から抜け出したけど、途中で子ども1人では生きていけないことが分かり、誰かに助けてもらいたくて、このマンションの自分の部屋に忍びこんだのではないかと勇は思った。
「迷惑かけてごめん。ただ、自分の意思でないとは言え、勝手にお兄さんの家に来ちゃったのは事実だから、嘘を言わずちゃんと事情を説明したかったんだ。でもワケわかんないこと言う変なやつだって思うよね。」
「いや、迷惑だなんて思ってないさ。ただ、君が本当にどこから来たのかを知らないと。」
勇は、レオを保護している大人が絶対いるはずで、なんとかその人のもとにこの子を送らなければと思い、本当のことを聞き出そうとした。
「ぼく、もう行くね!お兄さんに借りた服は必ず返しに来るよ!」
「ちょっと!そんな格好で外出たら……それにまだ……」
小柄なレオにはサイズが合わなくてダボダボしている勇の服を着たまま逃げるように部屋を出た。勇は追いかけて玄関のドアを開けたが、レオの姿はなかった。
レオの走る姿すら見えないことに、自分は幻覚でも見ていたのだろうかと一瞬思ったが、レオの着ていた麻の服は脱衣場にあるし、お風呂場には金色の長い髪の毛が数本落ちていたので、これは現実であることを再認識した。
勇は居間に戻り、大きなため息をしてベッドに座り込んだ。レオのことは心配だが、きっと保護している人の場所に戻るだろうと無理に楽観的に考えた。
少し横になって、いつも休みの日課としている昼寝をすることにした。昼寝と言っても、まだ午前10時ぐらいだ。
一方のレオは、2階にある勇の部屋を出た瞬間に、人間界に住む人々の何十倍もある身体能力で、マンションの共同廊下の手すりを飛び越えてぶら下がり、1階に着地して勇に見つからないようにマンションを離れていった。
自分の後ろ姿を見たあのお兄さんは、きっと追いかけてくる。けれども、身寄りのない魔界出身のこんな子どもを、人間界の一般人は同情するだけで精一杯だろう。
どうすることもできなくて、きっと最終的にお互いが嫌な思いをする。そんな気がしたので、レオは勇に姿を見せないように逃げたのだった。
しかし、身一つで来た初めての人間界。子どもであるレオは、この先どのように生きていくのだろうか──。
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