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それぞれの想い
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2人の前に現れた女性は、レオの姉で間違いないようだ。
レオはその女性に抱きつき、何度も姉さん、姉さんと言いながら涙を流していた。
「姉さんも流刑先は人間界だったんだね。でもこの広い人間界で再開できるなんて、本当に奇跡としか思えないよ。」
「私もそう思うわ。レオ、またあなたに会えて本当によかった。」
「でも姉さんはどうして自分の居場所が分かったの?」
レオがそう言うと、レオの姉は顔を勇の方に向けた。
「おそらく、彼のおかげ。」
勇はポカンとして、今の状況が読めないという顔をしている。
「紹介が遅れました。私はレオの姉、アルル・ナヴァールです。弟のレオを保護してくれて、本当にありがとうございます。」
「こちらこそレオには日常生活で色々助けてもらってるので、全然そんな……。」
レオの姉、アルルは弟のレオが美少年だけあって、かなりの美女だ。レオの証言通り、髪の色はレオと同じブロンドでロングヘア、目の色は右がブルー、左がグリーンのオッドアイである。
「それで、レオの居場所が分かった理由なんだけどね、私のマネージャーがたまたまSNSを見ていたら、姉の行方を探している少年が東京にいるという記事を見つけたのが始まりなの。」
「マネージャーは私に生き別れた弟がいることを知っているし、文章に書かれた姉の特徴がまるっきり私と一致していたから、すぐ私に報告してきたのよ。」
「しかも凝った作りの記事だったから、嘘やイタズラの類いではないと信じて、会ってみようと思ったの。」
「しかもちょうど仕事で日本に行く予定があったの。今日その仕事を済ませてホテルに戻る途中に立ち寄ったアメ横で、騒がしいあなた達を見つけたの。これはもう神の導きとしか思えないわ。」
勇は自分が作った記事を少し誉められたので、少し照れながら言った。
「あの記事書いたのおれです! 広告代理店で働いていることもあって、手は抜きたくなくて……。それにしても、マネージャー、ロンドン……なんか普段聞き慣れないものばかりでどこから聞いていいのか……。」
「姉さん、ロンドンはイギリスって国の首都だよね? 地図で見たことあるけど、日本からずっと西にある遠い国じゃん……。」
「そう、私が流刑になって着地した場所がロンドンだったの。途方に暮れて、気がついたら地下のバーで働いていたわ。でも、ある日常連だったドラマ監督をしている男性に女優にならないかってスカウトされて……。」
「アルルさんて女優さんなんですね。だからマネージャーが……。」
「ええ、と言ってもまだ駆け出しですよ。でも、最近ようやくドラマのレギュラー出演が決まったんですよ! 日本に今回来たのも、ファン交流イベントに呼ばたからです。」
アルルが柔らかい笑顔でそう言うと、勇は思わず顔を赤らめた。いつも自分を癒してくれるレオの笑顔とそっくりなのは、さすが姉弟と言ったところか。また、こんな美しい人が女優になるのは自然の流れだとも思った。
「アルルさん、立ち話もなんですから、どこか店入りませんか? 」
「なら、勇の家に来てもらおうよ! 姉さんにぼくがちゃんと生活できていることを知ってもらいたくて……ね!いいよね勇? 」
「……まぁレオが毎日掃除してくれているおかげで人に見せることができる部屋だしな。アルルさん、狭いところですがぜひ自分の家に。」
「そうね……。レオがどんな暮らしをしているのか実の姉として知っておきたいし。迷惑でなければ、お邪魔させていただきます。」
2人の住むマンションの部屋に着くと、アルルは見渡しただけで部屋の半分にレオの色が出ていることが分かった。しかも、もう半分の勇のそれと見事に調和しており、レオはここで不当な扱いを受けず、穏やかに過ごしていることを確信した。
「姉さん、ぼく人間界の料理たくさん覚えて、勇のために毎日作ってるんだ。」
「そういえばレオは料理得意だったものね。私たちが王宮から追放されて以来、数少ない材料で家族のためによく作ってくれたことを思い出すわ。」
「レオの作る料理、本当に美味しいですよね。 おれ、レオのおかげで一人だった時より毎日健康で元気に生活できてるんです。あと、あとなんといってもレオと毎日一緒なのが楽しくて……。」
勇は、レオとアルルが再開できたことを嬉しく思う反面、それはレオとの暮らしが終わることを意味しているのではないかと考えていた。
勇は、ここでレオがアルルと一緒に暮らすことを選択するのは本望と思いつつも、内心はレオとこのまま暮らしていきたいと思っている。
完全に自分の我儘だということは分かっているが、人見知りで奥手の自分が、唯一恋人のような関係を築けたレオと離ればなれになるのはとても耐えがたいことなのだ。
「勇さん、今までレオを本当にありがとうございました。これからは私がレオと一緒に……。」
気がつけば、レオの今後の話になっていた。勇の胸は焦りで張り裂けそうになった。それ以上先は言わないでくれと願う。
「姉さん待って!! 」
「どうしたのレオ? 」
「えっと……ぼく、この家と勇が好き。姉さんも好きだし、また一緒に暮らしたい気持ちはもちろんあるけど、離れたくないんだ、ここを。」
レオも、勇と同じ気持ちだった。レオにとって勇は、魔界にも人間界の違う場所にもいない身も心も委ねることができる愛しい存在なのだ。
「困った子だわ……。私に似て自己主張が強いことは昔から知っていたけど。あなたの勇さんに対する想い、私が女優という職業にかける情熱と一緒ね。」
「姉さん、ごめん。これだけは譲れないよ。勇だってきっと!……」
アルルはレオの言葉を遮って話し始めた。
「勇さん、あなたにお願いがあります。このワガママな弟、レオを預かってくれませんか?」
「急にどうして……。」
「さっき会った時から分かっていたけど、あなたたちラブラブね(笑) 私が入る隙なんてないわ。」
勇はアルルと会う直前にレオを抱きしめていたが、それを見られていたのかと思いヒヤッとした。
「それに私、今の女優業が忙しくて、ほとんどレオと一緒にいられないかもしれないし。あともう1つ、これは亡くなったお父さんとお母さんからお願いされたことなんだけどね。私とレオの2人は、自分の信じる道を歩んで、必ず幸せになりなさいと言っていたわ。」
「父さんと母さんがそんなことを……。」
「あなたずっと奥で泣いていたから、聞いてないのも無理ないわ。」
「父さん……母さん……」
レオは再開した時と同じく、アルルに抱きついて泣いた。今回はアルルも我慢していた涙が目に浮かんでいた。
「では勇さん、くれぐれもレオをお願いします! あと、ここではレオの年だと学校に通わせるのが一般的なんでしょ? 手続きは私の方でしておくから。」
「引き続きレオと一緒に生活できるなんて夢のようです。本当にありがとうございます。でも学校の手続きはどうやって? 」
「心配しないで。私の周りにはすごい融通の聞く大人たちがたくさんいるから(笑)」
「え……は、はい(笑)」
「姉さん、本当にありがとう。勇には迷惑掛けないように気をつけるね。」
「頼んだわよレオ。では、ひとまず私はこれで……。」
「アルルさん、夜も遅いですし、ホテルまで送りますよ。」
「ああ、大丈夫ですよ。普通の人間より私強いですから(笑) あと一応女優なので男性とホテルまでの道はちょっと問題が……。」
アルルはそう言うと、挨拶をして勇の住むマンションから出ていった。
レオの姉、アルルのおかげで正式に勇とレオは一緒に暮らしていくことになったが、2人にはこれより待ち受ける試練がいくつもある。
それらを待ち受けていることが知らない2人は、ただただ再び一緒に生活できることになった今を全力で喜んだ。
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