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では、と一礼して同居人を抱えた嶋は保健室を後にする…。
肩を竦める浅葱の胸ポケットから、軽快なメロディが流れた。…メールだ。メールを開いてみると、Ωのパートナーからだった。
『今日の晩飯、ハンバーグがいい‼』
ふむ、と唸って浅葱は返信を送る。
「ええっと…。『お、前、は、黙、っ、て、い、ろ』…っと。」
送信ボタンを押した後、浅葱は晴れやかな表情をしていた…。
帰宅した嶋は、真っ直ぐにダイニングに向かい、ソファーへと同居人の身体を横たえた。Ωの彼は、まだ眠っている。が、人目を避けての移動中に匂いはすっかりと薄らいでいた。
同居人は仰向けで眠る紫の傍らに腰を下ろして膝を立てると、視界に邪魔だろう相手の前髪を指先で軽く払う。目力なく、つんとした雰囲気が削げ落ちた紫の寝顔はあどけなく、小柄なのも手伝ってまるで中学生の如く同居人の瞳に映る。
「…。」
嶋の指先が、相手の額の上から口元へと移動する。顎の下までなぞって、ざらざらとしない触り心地に目を剥く。紫は髪の色素だけでなく、体毛まで薄いときている。…ソファーに横たわる、無垢な寝顔をした彼はΩを象徴するようだった。
すこやかに寝息をたてる彼は、まるで誰の足跡もついていない真っ新な雪原を思わせる。
長い睫毛が、なだらかな曲線を描く胸が、等間隔で上下する。…強いて言うなら、この純白さや無垢さに最も近いのは子供だろう。それも七つまでの。“神の子”と呼ばれるものに近い。
一角獣は処女でしか背に乗せなかったという。騎乗する者として、眠る紫が選ばれても通じそうな純潔さがある。
御伽噺の中で、安らかに眠る姫君の如く。紫には、何人たりとも犯しがたい禁域そっくりな神聖さがあった。Ωの者は、多かれ少なかれこの雰囲気を薄衣の如く羽織るのだろう。
嶋は、内なる獣の声に耳をすます。二、三の瞬きの後にαは鋭い眼になり、眠っているΩの男の上に覆いかぶさる。相手の頬に手を触れ、背を落としてからΩの耳元に甘く暗い呪詛を吐く。
「…てめぇは、一体オレの何を知っている??」
Ωは答えない。ただ、小さく唸ってごそごそと落ち着きを失くす。寝返りを試みたが、頭上の男のせいで成し得ない。仕方なく、体勢を元に戻す。
「お望み通り、お前を探ってやるよ。」
αは血が示す通り、額同士を擦り合わせて、獲物を睨みつける。獲物の喉がひくっと震えた。
「…お前の奥の奥までな??」
αは、ゆっくりと口角を引き上げてみせた…。
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