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八月第一週
暦は捲れ、八月に変わった。凶器かと疑う蒸し暑さは幾分か和らぎ、代わりに涼しい風が吹き出す頃。
月曜日。高校の閲覧室兼学習室(通称:図書室の奥の部屋)で、嶋は両腕を大きく広げた。
「終わったァァァッ‼」
彼の隣で、紫は達成感の余韻なく周囲の小物を片っ端から収納していく。嶋は高揚感たっぷりに同居人に話しかける。
「紫ちゃん、マジ助かった‼ありがとう~。…オレ、こんなに早く全部の課題終わったの、初めてだわ‼」
「全部、じゃないでしょう。…読書感想文とかは、僕の専門外だから。八割がた、座学が終わったってだけで。」
苦々しげな紫の手を取って、同居人は空中でぶんぶんと派手にシェイクする。
「いやぁ~。流石。流石、オレの紫ちゃん‼オレの目に狂いはなかった…。」
「は・な・し・て??」
ギロッと睨んでくる紫に、相手はあっさりと手を解放した。紫ははぁ、と肩を落とす。
「…人を持ち上げるのが上手いのは、十分伝わったから。それより、お昼食べよう??」
今度は、嶋があっと声をあげる。
「悪い、紫ちゃん‼オレ、今日はこれから友達と遊ぶ約束していて…。荷物を取りに行く関係もあるし、ここで弁当受け取って、家で食うわ。」
紫は若干顎を下げて、口を開く。
「じゃ、じゃあ、僕も一緒に家で…。」
「え~??いや、いいって‼紫ちゃんは、これから図書館で猛勉強でしょ??図書館近くか、いつも通り教室で食べなよ。オレ、一人でも平気だから。」
それとも…、と嶋は急速にニヤニヤと笑い出す。ふっと、紫に低い声で耳打ちしてみせる。
「…オレがいないと寂しい??」
「っば…‼」
片腕で薙ぎ払う紫に、相手は急いで後退し、手近にあった荷物を引っ手繰って、その場から去っていく。
「じゃっ、夕飯前には帰るから‼」
「二度と帰ってこなくてよろしい‼」
珍しく冷静さを見失って、一喝する紫だった。
「…今年の三月、紫ちゃんの身に何が起きたかわかる??」
屋内プールがある建物のロビーで、同居人の手製弁当を箸先で突っつきつつ、嶋は行きかう利用客を眺める。夏休みだから、繁盛しているのだろう。ぞろぞろ人々が往復を繰り返す。
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