アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
82
-
嶋はΩを睨みつけながらも、頭を総動員させる。
(この匂い、紫が原因だ。紫は発情期で…。)
(待てよ??ここは、オレの寝室だよな??)
(何で、薬を飲んでいる紫が発情期になって、鍵をかけているはずのオレの部屋にいるんだ??)
頭を抱えている若いαの前で、紫は依然、ボロボロと大粒の涙を流していた。
「ごめん…。嶋。…ずっと、嘘ついていてごめんなさい。」
知らず知らず瞳に力を込める嶋の前で、Ωの身体がぐらりと傾いだ。
「本当は僕、嶋のこ、と…。」
「紫ちゃんッ‼」
嶋が駆け付けるも、一足早く、Ωはベッドに倒れこんでいた。身体を起こし、体温をはかろうとするが…必要なかった。何故なら、ヒートを起こしているはずの自分より桁外れに身体が熱いのだ。顔中真っ赤で、意識はなく、呼吸が荒い。
「病院…。っつか、救急車‼…ちがっ、その前に抑制剤…‼」
嶋は自らに注射タイプの抑制剤を打って、枕元に置いていた携帯を手にすると、時刻は午前三時過ぎ。即刻、救急車を呼ぶ。一段落したところで、嶋は何やら魘されているΩの髪を撫でた。額の生え際が汗で湿っていた。
「…毎晩オレの寝室に夜這いしながら、何を考えていたの、紫ちゃん。」
紫の忙しない呼吸を聞きながら、同居人はぽつんと呟いていた。
救急車に乗り込み、搬送された先で担架に乗せられた紫を見送る時、相手は身を引き裂かれるように息苦しかった。自分に出来る術はないとわかっていたが、それでも紫の傍にいたい。
数分後。待合室にいた嶋は、看護師に呼ばれて、診療室へと案内された。デスクの前、回転椅子に腰かけ、カルテを見る中年医師は嶋に訊ねた。
「一緒に住まれている方、ですよね??患者の紫さん、Ω用のサプリメントをとっているなんて聞いた、或いは見た覚えはありますか??」
嶋は、素直に頭を横に振る。反応を見た医師は、ふむと自らの顎に手を押し当てる。
「紫さんの症状は、Ωホルモンバランスが崩れて発症したものと考えられます。ですが、通常このバランスというものは、滅多に崩れるものではないんですよ。よくある例ですと、サプリメントの飲み合わせが悪かったとか。…いかがわしい薬でも服用していない限りね。」
「はあ…。」
嶋は曖昧に頷くしかない。気難しげな面持ちの医師は続ける。
「例えば、フェロモン促進剤や麻薬がその類いですが…。」
「のんでない、と思います。」
医師は紫の素行の良さを知らないから、言えるのだろう。この世で、フェロモン促進剤は言うなれば媚薬みたいなものだ。品行方正な紫が手を出すとは思えない。麻薬など範疇外だ。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
82 / 146