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唇をもにょもにょさせる嶋に対し、彼女は礼儀正しくお辞儀を一つした。
「自己紹介がまだでした。私、黒川理絵っていいます。理絵って呼んで下さい。年下ですし。」
理絵ちゃん、と居住まいを正して、嶋も名乗る。
「オレは嶋智明。」
ふわっと鳥が翼を広げるかの如く、黒川は微笑む。
「…嶋さん。」
上品な声に乗っかって、彼女の容姿が同居人の影と重なる。ほんのちょっぴり、嶋はどきりとした。
(…紫ちゃん、絶対“嶋さん”なんて呼ばねぇんだろうな…。)
反面もし呼ばれたら、と思うとドギマギする。
(『嶋さん、鞄を持ちましょうか??今日もお疲れ様。』…って、新妻かよ‼…そりゃ、ちょっとは見てみたい、けど。)
しずしずと貞淑に自分へ寄り添う相手を見てみたい…なんて妄想を膨らませつつ、嶋は辺りを見回す。意味もなく数秒爪先立ちになって、少しでも遠くを見ようとする。
「あ~…。タクシー、まだかなぁ~??…なんて。」
片腕にはまだ、紫の荷物が残っている。…ずっしりと重い荷物に、腕の筋肉は悲鳴をあげて麻痺し始めていた。今更ながら、と嶋は空いている手で顔を洗う。
(紫ちゃん、一人置いていっちゃったし。すっごく怒っているだろうな…。)
同い年とはいえ、相手は病み上がりのΩだ。紫の好きな紳士とやらにならって、部屋に到着する最後までエスコートするべきだった。
とん、と小さな音がした。嶋が我に返ると、黒川が彼に必要以上に引っ付いて、タクシーを探す真似をしている。嶋は、たちまち半眼になる。
(あ゛~…。ヤッバい。もしかしなくてもこれ、思春期の子をひっかけちゃったか、オレ。)
黒川と紫を重ねて、少々過保護になっていたのかもしれない。早いとこ距離をとろう、と嶋が一歩後退った、途端。黒川のツインテールから、よく知っている甘い匂いがして…嶋の足が止まる。フェロモンとは違う、けれど褥で出会った、官能的な彼の匂いの一部。
「…理絵ちゃん、シャンプー何使っている??」
脈絡ない質問に、黒川は驚いたのだろう。咄嗟に少し距離をとって、おずおずと答える。
「Ω用の…××のシャンプーですけど。」
大手メーカーの名前だ。嶋は、眉を顰める。
「ひょっとして、変な匂いでもしましたか‼?」
繊細な思春期中学生女子に訊かれ、嶋は吃驚しながらも反射で本音を返す。
「えっ??…いや。…同居人の使っているシャンプーの匂いなんだ、これ。」
「同居人の方、Ωなんですね。」
茫然とする黒川に、嶋は再度どっきりさせられるが、誤魔化しようが思いつかない。
「あ…。うん…その…。」
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