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嶋の頬を、一筋の雫が伝い落ちていく。紫は前方で、来ているはずのタクシーを探してキョロキョロと辺りを見回す。…横顔は、普段通り凛々しく堂々としていた。
「紫ちゃんの打算的なとこもひっくるめて、みんな好き。…なあ、紫ちゃん。なんでオレを裏切ったの??もう、黙んなくていいから、教えてくれよ。頼むから‼」
紫は無言で、若いαの片腕をとる。嶋は優等生の手を、激しく薙ぎ払い問いただそうとする。
「なあ、紫ちゃん‼…このまま、さよならなんて悲し過ぎるだろうが、なあッ‼」
紫は…数秒、天を睨みつけると、酷く落ち着いた声を放った。
「…それでも、男でΩの僕は、嶋の恋人にはなれないんでしょう??」
「…‼」
目を剥く嶋の手をとって、Ωはずんずんと歩いていく。嶋は、見た。優等生が、片拳で乱暴に目元を拭うのを一度だけ目撃した。
紫が相手を引きずった先には、黒光りするタクシーがあった。後部席の扉は、早くも開いている。紫はそこそこしかない癖に力任せに、車内の後部席に嶋を押し込めた。嶋は、抵抗したけれど、優等生の言葉が気になって結局席に収まってしまう。
すると、紫がこんこんと肩拳でタクシー後部席の窓ガラスをノックする。運転手は気を利かせ、嶋から一番近い窓ガラスを三分の一ほど開けた。紫が喋りかけてくる。
「ねぇ、嶋。最後に一つ、いいかな??」
紫のおねだり口調にαは覚えがあった。
『…でもさ、出ていく前に一つ、頼んでいい??』
直後の“抱いて”発言を思い出し、じり、と紫から遠ざかる相手を見て、優等生は豪快に笑い飛ばしてみせる。
「ははっ‼…そんな警戒することじゃないって。…嶋の片手、ちょっと貸して。」
「…変なことすんなよ。」
嶋はおずおずと右手を差し出す。紫は両腕で、元同居人の手を包み込むとその甲に唇を寄せた。
「のぉわッ‼」
反射で引っ込める嶋に、Ωは肩を竦めてみせる。
「…チキンだなぁ、ダメα。」
「てめぇがエキセントリック過ぎんだよ、バカΩ‼」
睨み合う二人に運転手が気だるげな声をかける。
「…んじゃ、お客さんら、そろそろいいですかね??」
二人は慌てて、はい、と返事をした。タクシーのエンジン音が辺りに響く。
発信する前に、と紫がエンジン音に負けない大声を出す。
「…じゃあ、嶋。新学期、教室で。」
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