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「あっ、ううん。…誰かに呼ばれたと思ったんだけど、気のせいだったみたい。」
「ふぅ~ん…。」
ややあって、鼠色の甚平姿の木津は茶化し口調で紫の顔を覗き込む。
「…誰かって、智明??」
「…っべ、別に…そんなんじゃ…。」
もごもご言いつつ、紫は巾着の紐をきゅっと握る。華奢な指の動きを見て、木津はニヤニヤと笑い、紫の手をとった。
「おいで、紫さん。」
「えっ、ちょ…っ。」
やや強く引っ張られて、紫は目に見えてあわあわしだす。
「木津君、急に駆け出さないで…‼僕、慣れない下駄だから、転んじゃうよ‼」
「大丈夫‼ボクも下駄で、ぜぇ~んぜん慣れてないから‼」
「それ、大丈夫じゃないよね‼?」
からんころん、と風流な音を立てながら、二人は人波を縫うように駆けていく。
「今夜はフラレちゃった紫さんの頭から、嶋なんて大罪人は抹消してあげる‼」
振り向きざま、木津は気障にウィンクしてみせた。あっけにとられつつ、紫は一言零す。
「…ぶ、物騒だよ…。」
ピンポーン、とインターフォンの音が扉の内側から聞こえてきたところで、嶋は我に返る。
(しまった…。いつもの習慣でつい、呼び出しボタン押しちまった…。)
鍵は、と手にした金属に集中しかけた、矢先だった。信じられないことに、部屋の奥から甲高い女性の声が返ってきたのだ。
(え゛‼?)
嶋は焦って、扉近くにあるナンバープレートを確認する。…間違いない。紫の部屋である。
(ななな、何で年上の女性が!?)
(まさか…‼まさか、オレが気づかなかっただけで複数人のαを手玉にとっていたとか…!?)
あらぬ妄想をしていると、目前でガチャリと音を立て、玄関扉が大きく開け放たれる。
…室内に立っていたのは、紫と大きく年の差がある女性だった。嶋の、身近によく知っている雰囲気を纏っている。
「お、かあさん…。」
つい口を出た呼び名に、女性はにっこりと微笑んで答えてみせた。
「…はい。薫君のお母さんです。」
(御坊ちゃんの御母堂君臨~~~っ‼)
仰天しつつ、放心状態になりつつあった嶋は、身体が勝手に動いて会釈をする。
「…お、お世話になってます。」
留守を狙って家探しを企んでいた嶋は、保護者の前で途端に礼儀正しくなった。
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