アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
130
-
「我が家には夫の忘れ形見である息子がいてねっ‼生き写しとまでは言えないけど、大きくなるにつれて、あの子はどんどん父親そっくりになっていくの‼」
力任せにぎゅうぎゅうと両腕で締め付けられるが、不思議と嶋は痛くない。女性の力だというのもあるが、きっと手加減してくれているのだろう。嶋は痛くないのに、不思議と顔がぐしゃりと歪む。胸に熱いものが込み上げてくる。
Ωの母親はどこかふわふわしていて、現実味に欠ける部分もある。が、とびっきり愛情深い女性だとわかった。彼女は、ルンルン気分で嶋の肩に顎を乗っける。
「私、冗談抜きで子供は神様から授かられるものだと思う‼…だって、薫君がいなければ、今の私はここにいないもん‼一人で夫の後追い自殺でもしていたね。違いないわ‼」
あの子はΩで苦労させていると思うけれど、と紫の母親は目を伏せる。
「私の支えになっている。それは、絶対に間違いないの…。」
えへへ、と照れくさそうに笑って、Ωの母親は息子の同級生から、ぱっと身体を離した。
「あの子の成長を一日また一日と追いかけるのが楽しくって…。私、薫君に毎日言っていた。
『“子は鎹(かすがい)”って、本当なんだね。』って。『たった一人でも、好きな人との子供さえいれば人生は明るいんだね』って…。」
しみじみと呟くΩの母親に、嶋は口を噤むしか出来ない。つい先刻見た夢が後押しして、紫が描いた未来地図が、血の繋がった家族を知らないαの前にその全貌を現していく。
まあ、と母親はオチを付け加える。
「小学校に入学したての頃、自分のことを『“かすがい”です』って自己紹介したって聞いた時は、流石に『お母さん、やり過ぎたかな』って思ったものだけどね…。」
オチそっちのけの嶋は、ズボンの腰ポケットに入れた携帯が振動しているのに気づく。電話がかかってきていた。『紫薫』と表示された名前に、鼓動が高鳴る。Ωの母親に断りすらいれず、素早く電話に出た。
「紫ちゃん‼?…紫ちゃんは、その…、オレとの子供が欲しかったの??」
返答は、すぐに来た。
『おッッッせェンだよ、ボォォォケェェェっ‼』
「・ ・ ・。」
嶋は、毒々しい声の主を知っていた。携帯を耳から離し、深呼吸を一つしてから気を落ち着けて、再び電話に出る。
「…待て。何でお前がこの電話でかけてくんだよ、木津っ‼」
『紫さんとデートしているからに決まっているかなぁ~??』
「~…っ‼」
挑発に乗ってはだめだ、と考える一方で、携帯を握る嶋の手は力み過ぎてぶるぶると震えていた。
『今時、健気過ぎると思わねぇ??片思いしているαが、特殊な家庭環境だからとか何か抜かしてΩを眼中の外にしちゃってさぁ。普通、そこで諦めちゃうだろ??…でも、紫さんは、最後までお前を諦めきれなかったんだよ。せめて、お前の子供を生みたいって思うくらい。』
一拍置いて、木津は忌々しげに息をつく。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
130 / 146