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ずずっ、と鼻を啜る音がしてから、木津の力強い声が聞こえてきた。
『今のボクはお前よりずっと、紫さんを笑顔に出来るよ、嶋。』
だから頂戴、木津は深く俯いたままの嶋を急き立てる。嶋は、額に手を持っていく。手のひらに、じっとりと汗が滲んでいた。
『ううん、違うな。…奪うよ。ボクが紫さんと付き合って、必ず幸せにしてみせる。』
それから、思い出したように木津は付け加える。
『…ああ、そうだ。紫さんが、小さい声で言っていたっけな。…嶋の秘密を、勉強机の鍵付きの引き出しに入れてそのまんまになっているって。いい加減、嶋を諦めないとと思っているのに、どうしてもそれだけは捨てられないんだってよ。嶋、代わりに捨ててあげたら??』
電話を切る前、これ見よがしに木津の呟きが漏れ聞こえてきた。
『さて、と…。嶋の馬鹿野郎にはお説教したし、××展望台でも行こうかな~。あそこ、これから始まる夏祭りの花火の絶景ポイントなんだよなぁ。穴場で人もいないし、告白するチャンスだよねぇ~…。』
通話の切れた携帯を、嶋はぼうっと見つめ続けた。凍結している嶋を見て、心配になったのか。紫の母親が、息子の同級生の肩をとんとんと叩く。嶋はぎこちなく、Ωの母親へと振り返る。
「…だ、大丈夫??顔にあんまり血の気がないようだけど…。」
「…おばさん、オレ…。」
言いかけた嶋の視界に、Ωの勉強机が掠める。嶋は吸い付くかの如く、鍵穴のある引き出しに手をかける。かたん、と小さな音がして…引き出しは硬く閉まったままだ。
「…。」
がっくりと肩を落とす嶋を見かねて、Ωの母親がぽんと手を打つ。
「あら、そこの引き出し??薫君は確か、いつもゴミ箱の裏にセロハンテープでくっつけているはずよ??」
(…防犯がばがばじゃないのか、紫ちゃん。)
ゴミ箱をひっくり返して、鍵を手にした嶋はバッとΩの母親を見る。
「いや、おばさん‼…いっ、幾ら何でも息子が大事に物を閉まっているところの鍵の在処をよくわからねぇ間柄の奴に教えたらダメでしょ…。」
え~??、と紫の母親は小首を傾げた。
「だって、嶋君って何だか格好いいし。それに、薫君のこと喋る時、色々な感情が混じって見えるんだもの。薫君を嫌がっている人は、絶対にそんな反応しないものよ??」
ふふっと微笑む底知れないΩの母親の前で、嶋は緊張しつつ、すーっと引き出しを開く。
(オレの秘密って…つまり、紫ちゃんに養子って事実がバレた証拠品があるんだよな。)
すると、そこには…蛍光オレンジとしか評しようがない色の長方形の紙が一枚。短冊は上部に、パンチで開けたとみられる穴に丸く結ばれた細い糸がついていた。紙の正体がよくわからず首を捻っていた嶋だったが、紙にボールペンで書かれた文字を見て、平手で殴られたような衝撃を受けた。文字は、乱雑に綴られている。
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