アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
137
-
「嶋を目で追いかける度、決まって想像してしまうんだ。嶋と将来の家族を…。」
でも、と紫はずるずるとその場に座り込んで、弱々しい声をあげる。
「…隣にいるのは顔も知らないβの女性で、抱えている赤ん坊は嶋と彼女の子。ズルい。…僕も嶋との子供が欲しいって、強く思ったんだ。…父親の嶋がいなくても、立派に育ててみせるんだって。」
だって、と優等生は子供みたいにしゃくりあげる。木津が後ろに回って、甲斐甲斐しく背を上下に撫でてやる。
「嶋は、僕の初恋の人だから。…高校生になるまで、好きになった人なんて誰もいなかったのに。きっとこれからも、こんなに自分や家族以外の誰かを思うことなんて二度とないよ。なのに…。どうして、相手は絶対にΩを選ばない嶋だったんだろう…。」
紫の背を強く宥めながら、木津は話しかける。
「…紫さんの敵になるつもりはないけど、嶋の弁明をさせて欲しい。母さんに、一回訊いたことがあるんだよ。ボクら生まれた頃ね、“将来素質診断”っていうものが一時期流行った。」
後にインチキだって証明されたんだけど、と木津は補足する。
「“将来素質診断”は、生まれてくるαがより優れているかを診断出来るという代物だった。αが生まれてくる確率の高いα同士の両親は、こぞってこの診断を始めた。その結果、悲劇が起きたんだ。…αとして、あまり優れていないと判断された赤ちゃんがたくさん施設に捨てられていったんだよ。…かく言うボクも、母が御祖父様に離縁状叩きつけるまでは捨てられる運命にあったそうだけど。」
嶋もその一人だろうね、と木津は片手で顔を洗う。
「同情なんて、とてもじゃないけど誰にも出来ないだろうね。同じαでも、嶋とボクじゃ環境があまりにも違う。嶋が事実をひた隠しにするのは、対して痛みも知らない連中に“可哀想”なんて上辺だけの言葉をかけられたくないからっていうのもあるのかもね。…紫さん、地面と向き合っていたって楽しくはないだろう。さぁ、立つんだ。そろそろ、花火が始まる。」
木津に半ば引きずられるようにではあるものの、紫はその場に立つ。夜空に一輪の花が咲いた。青、赤、緑…。花火は、いつだって夜空に鮮やかな彩りを添える。
「同居したての頃は、嶋を挑発して抱いてもらおうとしたけど、上手くいかなかった。」
ぱぁん、と破裂音がしてまた一輪と地上から空へと花が咲き誇り、あっけなく散っていく。
「そりゃそうだよ。…嶋は、優しいαだから。怒っている声は時折聞くけど、あれでも感情の制御はきちんとできている。」
次々と、夜空に花が溢れる。まるで、光の花束だ。紫は、涼しい風に全身を煽られて、夏の終わりを噛みしめる。
「昼間はつんけんして、夜は色っぽく夜這いしたのに、嶋ったら全然手ェ出してくんなかった。…僕のΩフェロモンって、そんなに嶋にあってない??」
「…嶋はΩフェロモン自体を嫌っているって、わかっているだろ。相性というよりは、意志の問題じゃないかな。」
どぉん、ぱぁん…‼音が響きを変え、花火の種類も増えていく。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
137 / 146