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一夏の空振りだらけの恋が終わる。誠実で雲の上のあの人に、紫なんかでは直球じゃ届かないボールを変化をつけて投げ続けた。ひん曲がってばかりの頑張りは、とうとう最後まで報われなかった。
「夜這いしている時にね、嶋ったら少し苦しむとすぐ寝ちゃうの。何それ、って最初は怒りたくなるんだけど、子供みたいな寝顔を見ているとむかむかした気持ちは不思議とどっか飛んでいくんだよね。恋愛は惚れた方が負けって、こういうこと言うのかな??」
涙が止まらない。忘れられない明るい一瞬を切り取って話しているのに、それでも枯れたと思った涙は、泉みたいに沸いて来て、紫は嫌悪感に表情を歪めた。
「他の誰にもきっと、こんな馬鹿げた考えを理解してくれる人なんていないよね。それでも、いいの。…嶋の子供が、どうしても欲しかった。嶋に似ていなくたって、関係ない。嶋がお父さんなんだって、嶋の血を継いだ子を産めるなら…何だってしたかった。」
顔を手で覆い、紫はくぐもった声でそこにいない人間に告げる。
「好き、大好き、愛している…。他なんて考えつかないくらい、愛していたの…。」
「紫さん。」
紫がそろそろと顔を上げると、木津が展望台の手摺から向こうを指さした。
「…こっから、思いの丈を叫んじゃえば??みんな、今頃花火に夢中だよ。」
ドがつきそうに静謐な夜空を見上げ、紫は異議申し立てをする。
「…花火、見えないんだけど。」
「仕掛け花火の時間だな、きっと。…これはボクの計算ミス。」
ふっと笑って、紫は展望台の手摺に両腕で掴む。そういえば、と試しに下方を覗き込んだ紫は即座に顔を上げる。展望台の下は、絶壁になっていた。落ちたら、擦り傷どころの話ではない。気を取り直して、紫はすぅっと息を吸い込む。次の瞬間、ネオンサインが美しい街に向かって叫んだ。
「僕は、嶋が好きぃぃぃ~~~っ‼」
強い風が吹いた。…刹那。
「…オレも‼」
紫はロボットを思わせるぎこちなさで、振り返る。…後方には、名指しされたαが佇んでいた。顎から夥しい玉の汗を滴らせ、服はぐっしょりと汗に濡れ、所々肌に吸い付いている。
紫は硬直し、三秒後。展望台の手摺を登りだした。まさかの展開に、α二人が慌てる。
「紫さん‼?何しているの、飛び降りる気‼?」
木津は、紫の帯にしがみついて止めようとする。
「飛び降りるに決まっているだろっ‼嶋に…よりによって嶋に聞かれたぁぁぁッ‼」
大泣きする紫は、上半身を乗り出して手摺を超えようとする。
「何でこうなるんだよ、クソッ‼紫ちゃん、いい加減に大人しくしやがれぇぇぇっ‼」
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