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番外編【雪が降る頃に】
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「すぐ帰ってくるから、待っててね、雅志。」
………
「母さんを探してくるから、雅志はここで待ってなさい…すぐ戻ってくる。」
そう言って、両親とは二度と会えなくなった。
約束なんて信じない、必ず、なんて信じない。
気がついたら、家は荒れていて、気がついたら、知らない部屋にいた。
それが何処かなんて関係ない、今の俺には、母親だって、父親だって、大切なものなんて有りやしないんだ。
「…寂しい」
不意に零す言葉に、本当に苛立ちが立つ。
自分は弱いんだと、周りがいないと生きていけないと、そう、現実を、自分に叩きつけられているようで
孤児院の廃れた1人部屋で、何度その言葉を飲み込んだか。
当時、小学生だった俺には辛く、非情な現実だった。
もう、俺が甘えられる人達はこの世に居ないんだと、分かっていても求めてしまう。
俺は、本当に弱いな。
…
……
………
「お前、うち来る?」
あの日から、何日経っただろう。
ふと、孤児院に来ていた知らない男に、廊下で声をかけられた。
「…は?」
「だからぁ、うち来るかって」
男は頭を掻きながら、だるそうにそう言う。
「…なんで、急に、」
単純に疑問だった、なぜ俺に、なぜ突拍子もなくそんな事を。
「目見れば分かんだよ、お前、人生諦めてんだろ」
そう言われ、ぴし、と体が固まる。
「…お前には関係の無いことだ、」
「関係あるよ、俺が知ってるやつが、俺の知らないところで死んでもらっちゃ困るんだよなぁ」
「…俺はお前のことは知らない」
きっ、と睨みつけると、相手の男は少し微笑んだ。
「ふ、そんな顔できんじゃん、表情筋死んでるのかと思った。」
俺ははっとして、目をそらす。
その反応が面白かったのか、男はけらけらと笑いながら、俺の頭に手を乗せると、撫でくりまわした。
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