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見つけたもの
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「またお越しくださいませ」
和服姿の女将が頭を下げて、門を出て行く車を見送る。
黒塗りの高級車、その後部座席に長い足を持て余し気味に座るのは、国内最大規模を誇る暴力団・国士会の傘下にある二次団体・紅林会を率いる藤堂 大河__トウドウ タイガ__だ。
黒く長めの前髪を後ろに流し、シャープな目元は相手を威圧する冷たい光がある。鼻が高く引き締まった口元。どこかのモデルと言われても納得できそうな顔立ちだ。しかも、その身体は実践とトレーニングで鍛えられたしなやかな筋肉がつき、厚い胸板がその逞しさを物語る。しかし、身長が高いため非常にバランスの取れた身体つきだ。
190を超える藤堂が座ると、広々とした後部座席も少し狭く感じる。
歳は30代半ば、というところか。
腕を組んで目を閉じた藤堂に、助手席に座る腹心の部下・白川が声をかける。
「会長、今日はどうされますか?」
時間はそんなに遅い時間ではない。
「向こうのマンションだ」
それを聞いた白川が頷き、運転手に指示すると、藤堂が囲っている女の住むマンションに向かう。
囲っていると言っても、都合の良い性欲処理の相手、という程度だ。飽きれば次に行くだけだ。
藤堂にはやくざの会長という裏の顔だけではない、もう一つの顔がある。
学生時代に立ち上げた会社を持ち、その会社は今や海外とも取引があり急成長を続けるトードーコーポレーションの社長も務める。
今日は表向きの仕事の接待だった。
歳だけ取って能力のない、年功序列という言葉に縛られた、どうしようもない相手だったが、次の取引のためにどうしてもこの男の繋ぎが必要だったのだ。
藤堂を若造と侮った男との取引も、繋ぎを手に入れた時点でもう必要ない。相手は藤堂との繋がりを手に入れたと思っているだろうが、二度と会うこともないだろう。
夜の街はまだ早い時間ということもあり、活気に満ちていた。
信号待ちの先頭に並び、横断歩道を渡る人々が通り過ぎてゆく。
藤堂は閉じていた目を開け、何気なくその人々を眺めた。
ふと。
一人の人物が目に留まる。
誰か男と歩いているその人は、一瞬男か女か躊躇うような可愛らしい顔立ちだった。
その人が、隣の男の顔を見上げて、なにやら楽しそうに笑っている。
その笑顔が藤堂の胸を騒がせた。
色の白い華奢な身体つきのその人は、笑ったと思えば頬を膨らませ怒っている。だが、すぐに笑顔になった。
その笑顔から目が離せなくなる。
無性に、その笑顔を向けられている隣の男が腹立たしく思えた。
なぜ、あの笑顔を自分に向けてくれないのか。
その人は、藤堂が乗る車の方向に歩いてきた。
その時、隣を歩く男がその人の頭を撫でた。
照れたように何か言っている姿に、藤堂の中である感情が形を持つ。
素早くスマホでその人の写真を撮る。ちゃんと顔が映った。
「会長、これは?」
助手席から白川が声をかけた。有能な彼にしては珍しく戸惑ったような声だ。
無理もない。いきなり藤堂から誰かの顔写真が送信されたのだ。
「調べろ」
短く言うと、再び目を閉じた。
その時、自分の下肢に熱が集まるのを感じた。
今の人を考えただけで昂ってくる。
女のマンションに着くと、玄関を入ったところでその女を貫く。
嬌声を上げて演技だけではない声を上げる女を前に、藤堂の心と脳裏を占めるのは先ほどの人物だった。
あの人が女でも男でもどちらでもよかった。
その人を思いながら、女の中に欲望を吐き出す。
もちろん、後腐れのないように避妊は忘れない。
昂りを鎮めてしまえば、後はもう用はない。
玄関に女を放置したまま、さっさとそこを後にする。
もう、この女も必要ない。ここにも来ることはないだろう。
橘 操__タチバナ ミサオ_21歳、独身、一人暮らし、仕事はカフェの店員とコンビニの店員の掛け持ちだ。
母親は小さいころ家出、父親も中学の時に失踪、それ以降は施設で育ったとある。
自宅や職場の住所もある。
ただ、恋人の有無に関してはわからなかったらしい。いると面倒だがそれでも構わなかった。
これが夕べの写真だけで白川 隆__シラカワ タカシ__が調べ出したことだ。
藤堂が会社を立ち上げたときから傍にいて、藤堂の持つカリスマ性とその手腕に惹かれ、極道という一面も併せて藤堂の右腕を務める優秀な男だ。
職場の住所は意外と近かった。
翌日。
大通り沿いのガラス張りのカフェに藤堂が現れた。
身長が高くモデルのような藤堂は、店内に入った瞬間店にいるすべての視線を集めた。
操も驚いたように藤堂を見ている。
その操をまっすぐに見て、声をかける。
「コーヒーをくれ」
そして、操の近くの席に座る。
一瞬呆けていたような操だったが、すぐに気を取り直したのかメニューを持って、駆け寄ってきた。
「お客様、当店ではブレンドにも種類がありまして、どれになさいますか?」
とメニューを差し出した。
初対面で、藤堂とここまで自然体で話すことができる人間は、そうそういない。
誰もが藤堂の持つ人を圧倒する存在感と、その内側まで見透かされるような鋭く冷たい視線に身体が動かなくなるのだ。
しかし操はそんなこともなく、今もまっすぐ藤堂を見ている。
陽に焼けたことのないような白い肌は病的な生白さではなく、輝くような白さだ。小さな顔には、綺麗な弧を描く眉と大きな色素の薄い瞳。それが長い睫毛に縁どられている。鼻も小さく、白い肌に紅く紅を差したような形のいい唇に目線が行く。中性的なかわいらしい顔立ちだった。
瞳と同じく、明るい髪はどうやら地毛のようだ。長めのふわふわした髪は、操の雰囲気に良く似合う。
「お前のお勧めはどれだ?」
藤堂が尋ねると、操はすぐに上から二番目を指す。
「このハウスブレンドを試してみてください。僕はこれが一番好きです」
そう言ってにっこり笑う。
物怖じもしないうえに、この自然な笑顔だ。
どこもなにも取り繕わない操の表情と態度に、益々興味を惹かれる。
それに頷くと、さっそくカウンターにオーダーを通す。
他の店員も店内の客も、まだ呆気に取られて藤堂を見ているが、そういう目線に慣れた藤堂は一切気にしていない。
「お待たせしました。ハウスブレンドです」
そう言って操が淹れ立てのコーヒーを運んできた。
「うまいな」
一口飲んで言えば、操は嬉しそうににっこり笑った。
藤堂が普段見慣れたような媚などが一切含まれない、あの夜藤堂を惹きつけた笑みだった。
「お前名前は?」
藤堂の不躾な質問にも、
「橘操です」
と言って頭を下げた。
コーヒーを飲み干すと、ありがとうございましたと頭を下げる操の頬をすっと撫でて会計を済ませて店を出た。
ちらりと振り返ると、操がぽかんとして藤堂の後ろ姿を見ていた。
その様子がかわいらしくて、藤堂の目元が少し和む。
少し先に待たせた車に戻るころには、いつもの無表情で相手に心を悟らせないことを身につけた顔に戻っていた。
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