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昨夜、藤堂に父親のことを話したことで、少しだけなにか肩の荷が下りたような気がした。
ただ、あの父親の様子を思い出すと不安にもなる。
操を見捨てるように出て行った後の父親が、どんな風に暮らしていたかなど知る由もない。
ただ、あまりまともな生活はしていなかったのだけは想像がつく。
でなければあんな風に自分の前に現れないと思うからだ。
もうあの人が現れませんように。
操のそんな願いは、あっさりと打ち消されることになる。
店内に入ると、片隅のテーブルでマスターと二人の常連客が何やら話し込んでいる。
「どうかしました?」
操が声をかけると、マスターが顔を上げていった。
「ああ、操君も気を付けてね」
「なににです?」
「少し前にね、店の周りをうろうろしてる不審者がいたんだよ。店の様子を伺ったりして怪しいやつ」
「それで少し前にお巡りさんに連絡して来てもらったんだ」
「そしたらそいつは慌てて逃げていったけどね」
口々に説明してくれる。それを聞いて、操の顔が曇る。
「それ、どんな人だったんですか?」
「なーんか小汚い感じ?浮浪者かな?」
「でもスーツみたいの着てたよね」
「髪とかぼさぼさだったし、人相はよくわからないな」
この間会った父親のような気がするが、どうだろうか。
というか、どうやってここがわかったのか。また、お金をせびられるのだろうか。
一瞬で色々考えこんでしまった操に、何を思ったのか取り繕うように言ってくれた。
「まあ、操君はかわいいからね。用心に越したことはないっていうか」
「そうそう。お巡りさんも来し、もう来ないよ」
「そもそも、この店に用があったかなんてわからないんだしね」
口々にそう言ってくれるが、心配ではある。店に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
とりあえず、今夜藤堂に話してみようと思った操だった。
昼休憩の時、一人で昼食を摂っていた操に原田が声をかけた。
「操君、ちょっといいかな」
「はーい」
顔を出すと、コーヒーを渡される。
「いつもの人が来てるよ」
「え?あ、わかりました。すみません」
どうやら藤堂が来たらしい。
いつものテーブルに見慣れた大きな人が座っている。
「お待たせ。ごめんね。休憩中だったんだ」
そう言ってコーヒーを置くと、藤堂が
「奴を見かけたら連絡しろと言ったはずだが」
と操を睨む。
「奴?」
「奴が来たんだろうが?」
ようやく、今日マスターたちが騒いでいた不審者のことを言っているのだと気がつく。
「僕は見てないよ?っていうか、よく知ってるねぇ」
首を傾げると、藤堂が苛立たし気に
「そうじゃないだろ。奴が現れたんなら、その時点で連絡しろと言ってるんだ」
「や、でも、まだそうとは決まってないし」
不審に思える人をいちいち疑っていたら、キリがないのではないかと思う。
「今日のことは言わないつもりだったのか?」
「帰ったら言えばいいかなって思ってた」
危機感の全くない操に、藤堂は内心溜息をつく。
今日のことを知ったのは、念の為操の周りに人を置いておいたが、そちらからの報告でそれらしき人物が現れたとあったからだ。
しかし、肝心の操からは何も言ってこない。もしやと思って来てみればこれだ。
操の父親は借金でかなり追い込まれている。何をしでかすかわかったものではないのだ。
「いいか。少しでも何かあったら連絡するんだ。何かあってからじゃ遅いんだ」
「う・・・わかったよ。ごめんなさい」
しゅんと項垂れる操に、藤堂も目元を和らげる。
操は一般人だ。何の力もない。おそらく身体を使った喧嘩なども全くしたこともないだろう。
そんな操に、自分たち並みの警戒感を持て、といっても無理な話なのかもしれない。
「わかればいいんだ」
そういって、柔らかな操の髪を撫でると、立ち上がった。
「わざわざ来てくれてありがとう」
忙しい時間を縫って、こうして心配して来てくれたのだ。
そういう優しさが嬉しかったし、ありがたかった。
礼を言って微笑む操の頬を撫でると、来た時と同様、店内の注目を集めながら出て行った。
「あの人、すげー迫力だよなあ」
藤堂が帰った後、空のカップを下げてきた操に金子が話しかける。
「そう?」
すでに藤堂に慣れきっている操は首を傾げる。
「あの人何者なんだ?」
何者かと聞かれて正直に答えるわけにはいかない。
なので、当たり障りのない部分を話す。
「んー、なんだか会社をやってるらしいよ」
「そうなんだ。どんな会社?」
「え?あ、そういえば知らない」
興味がないのではなく、自分とは別の世界の話だと操は思っている。必要なら教えてくれるだろうし、教えてくれないのは何か理由があるからだと思っている。
「そうなんだ。あんなにしょっちゅう来て話してくのに?」
「うん。ほとんど聞いたことがない」
「・・・じゃあ、付き合ってるとかじゃないんだ」
「え、何か言った?」
金子が呟いた言葉は、食器を洗うため水を流し始めた操には聞き取れなかったらしい。
「いいや。何も」
なぜだかニヤけてくるのを、なんとか押さえる金子だった。
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