アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ひめごと
-
「モモタロスって、いつも優しいよね」
「…ハ?」
それは良太郎の呟きに対する一同の反応であった。彼は皆の様子に目を丸くし、みんなはそう思わないの、と聞き返す。首を振り、空気を切る音がした。
「そんなわけないでしょ、第一あんな乱暴者を優しいとか言ってたら色々心配だよ…」
机に腰掛け、足を組んでいたウラタロスは思案顔で頬に指を当て、良太郎の頭髪を指でつまむ。それに良太郎は反射的に目を瞑り、それから薄く目を開くと、彼の視界には眉尻を下げて微笑むウラタロスが映った。
「良太郎、流石にその意見には頷けないわよ…どうしたの、脅された?」
「い、や、違うよ…」
良太郎は迫るハナに少しばかりすくみ、否定の念を伝えると腰を少しばかり彼女から逃げるように浮かして再び腰掛けた。
「だってさ…ちょっと乱暴かもしれないけど、いつも僕のこと助けてくれるし、わがまま聞いてくれるし…あとリュウタロスとかに弄られてもすぐ手を上げたりしないでしょ」
「それはまあ、そうだけれどさ…」
「それは優しさとはちゃうんやないか…?」
指先を絡め、良太郎は目を細める。キンタロスまでもが半ば呆れているにもかかわらず、どうやら彼のその意見は固いようであった。
「…みんな優しくないって思う?」
「優しい優しくないじゃなくて、あれは乱暴か否か、だよ」
「じゃあ優しさで言ったら」
「そう言われるとねえ…」
ウラタロスは耳に掛けた碧の毛髪を指に絡めて遊ばせる。それから溜息を吐き、苦笑を浮かべた。
「そっか…」
良太郎はおもむろに立ち上がる。
「ん、どこか行くんか」
「ううん、ちょっと昼寝するだけ」
「ここでいいじゃない」
「だって僕が寝てるとみんな気遣うんだもの、みんなに騒いでいて欲しいんだ」
「ふうん」
ドアが開き、良太郎は食堂車を去って行った。ウラタロスは息を大きく吐き、ああと声を上げる。
「健気だねえ…」
伸びをしたウラタロスにキンタロスは首を傾げる。それからしばらく押し黙って考えたものの、やはり口を開いた。
「どういうことや?」
「わかんないの、キンちゃん」
「さあ…」
キンタロスは腕を組み直し、首を鳴らした。ウラタロスは脚をふらふらと振る。ハナがそつとキンタロスに耳打った。彼の目が大きく開く。
「そうなんか…?」
「痘痕も靨、ってやつだね」
「本当よ…」
三人は苦笑しながら談笑を続けた。一方、良太郎は食堂車を出た後、しばらく前までジークが居座っていた倉庫へと向かっていた。羽やらその他の動物は逃がされたり片付けられたものの、寝台ばかりは時折使う者が出るため取り残されている。
彼は横になると、近頃の不幸や疲れからかすうと間もなく寝息を立て始めた。
「ア、」
「んえ…?」
気配に薄く目を開くと、その視界には紅い色がちらついた。どうやら深く眠っていたようで、未だ夢の世界が後ろ髪を引く。
「…起こしたか?」
「ん…いや、しばらく寝たから大丈夫…」
そこにはブランケットを手にしたモモタロスが焦ったような顔をして寝台の側に立っていた。しばらく前に話していたことと相まって良太郎はにやにやとしてしまう。モモタロスは眉をひそめた。
「…何笑ってんだ」
「んふ、ううん…何でもないよ、ほんと」
「気持ち悪ぃなあ…」
良太郎はブランケットを受け取り、膝にかける。
手の空いたモモタロスは上半身を起こした良太郎の頭を肘置きのようにした。
「…やっぱり優しいよねえ…」
「誰が」
「モモタロス」
「エェ?」
頓狂な声を上げ、モモタロスはぐりぐりと肘で良太郎の旋毛を押した。それに良太郎は肩をすくめたものの、手加減されたものであった。
「えへへ…」
「お前そういうこと他所でやってねえよなあ?」
「ん、どういうこと?」
「こう…ズルいことだよ、」
「ええ…?」
小首を傾げ、良太郎は苦笑する。モモタロスは決まりが悪そうに頭をひとつ掻いた。それから折角起き上がった良太郎を少しばかりまた倒し、首筋に頬を擦り付ける。良太郎の耳にモモタロスの髪が当たり、良太郎はこそばゆいと呻き声を上げた。
「あ、」
良太郎の首元にモモタロスの犬歯が当たる。
「…ッ、だめだよ、ねえ…」
「五月蝿え、マフラーだとかで隠せばいいだろ」
「みんなにばれちゃだめでしょ」
「…悪かったって」
良太郎はハンカチを取り出し、少し滲み出る血を拭った。モモタロスはその間ずっと歯型の痕を眺めている。頼りない良太郎の指がその痕をなぞって撫でた。衣服が引き上げられ、痕が隠れる。
「…ね、なんで噛むの?」
「…いや…オレにも、わかんねえ…」
「…ふうん…」
そこはかとなくうずうずとしていたモモタロスは、良太郎の溜息を飲むようにして口吸いする。
「んっ…!っふ、うぁ……」
「なあ……」
「だめ、待って…家、家に戻ってから…ここだと、みんなと完全に切れなくて…」
「そ、れを最初に言えよ!」
「モモタロスが問答無用で色んなことするからでしょ!それに僕はだめって言ったもの、」
「ぐ……」
モモタロスは押し黙ってバツが悪そうにした。良太郎はしばらくモモタロスを睨むようにしていたものの、少し目を背けてからはにかんだ。少しばかり赤面したモモタロスは表情を歪ませ、羞恥に悶える。
「…だからさ、家、戻ろうよ」
「……おう」
良太郎はモモタロスを残し、倉庫を出る。モモタロスはしばらくその場にうずくまっていた。
食堂を良太郎が通過するとき、キンタロスが呼び止める。嫌な予感がウラタロスを襲い、思わずがたりと席を立った。ハナも焦りを顔に表す。
「なあ良太郎…」
「ん?」
呼び止めた手が良太郎の肩に置かれ、衣服が少しばかりずれた。そこには紅い痕がはっきりと残っている。流石にキンタロスもそれを見逃さず、手をゆっくりと肩から外す。
「…体、気ぃつけてな」
「?うん、ありがとうね」
良太郎が食堂車を再び去った後、二人の安堵の溜息と一人のなるほどという声がその場に残留した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 4