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13.後悔
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「加奈子さんから電話、入っていたわよ」
帰宅すると、妻の佐和子に言われた。
「……」
「帰ったら何時でもいいので連絡くださいだって。ともかくあなたとお話したいようだったわよ?」
自分から連絡を取ろうと思っていたのに。
彼女が、わざわざ電話をくれるということは。
よくないのだ。
吉岡は、すぐに電話をかける。
『もう。長くはないと言われました』
加奈子は開口一番にこう言った。
主語がないので意味がわからないはずなのに。
なぜか内容がほぼ理解できてしまう。
「加奈子さん……」
『市立病院に入院しました。帰って来てから、ほとんど食事を摂らないから、おかしいなと心配していました。なんだかすごく痩せてしまって。本人は疲れだと言い張るのですが。今日、仕事中に倒れたのです』
受話器を持って立っているのが精一杯だ。
これ以上聞きたくない。
心のどこかで叫んでいる。
加奈子の声が途切れ途切れに頭に響く。
『がん、なんですって』
がん?
『手遅れなの』
手遅れって、どういうことだ?
間に合わないって、どういうこと?
『国に行く前から具合が悪かったのに、放っておいたから……』
知っていたのに。
具合が悪そうなことを知っていたのに。
あのとき、きちんと加奈子に伝えていれば。
もっと早く見つけられていたのだろうか?
『後数ヶ月って』
数ヶ月?
電話を切って、そのまま受話器を握りしめる。
様子がおかしいと見に来た佐和子は、じっと動かない吉岡を後ろから抱きしめる。
「あなた……」
「保住さんが、……保住さんが……」
言葉にならない。
いなくなる?
完全に。
重くのしかかるこの思いはなんだ。
絶望なのか?
息が苦しい。
喉元を抑える。
「もう手遅れだって。持って後数ヶ月だって………」
涙が溢れる。
そんな。
そんな。
ひどすぎる。
まだこれからじゃないか。
あの人には、まだやらなくてはいけないことが沢山あるのだ。
自分は、まだ教えてもらいたい事が沢山あるのだから。
「あなた……」
佐和子は吉岡の気持ちに寄り添うようにじっとそうしてくれる。
彼女の温もりが暖かい。
「心残りばかりだ……」
「心残りないようにしなさいよ」
はっとして顔を上げる。
彼女は、じっと吉岡を見上げていた。
「あなたはずっと保住さんに恋してきたんでしょう?このままになったら後悔する。あなたの気持ちを知りながら結婚した女よ。気にしないで」
「佐和子」
「いやだなー。今更どうこう言わないから安心して!むしろ、ウジウジされたらたまんないんだから。ちゃんとしなさいよ。いいわね?」
腰に回った彼女の手に触れて吉岡は黙り込んだ。
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