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16.愛おしい気持ち
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「おれ、保住さんが好きだから」
「好き?」
「そうです。好き」
瞬きをしていた保住は、ぼんやりとしたまま呟く。
「おれも、お前は好きだ」
「保住さん?」
「おれは、みんなが好きで……」
「違います!」
吉岡は再び保住の顔を覗き込んだ。
「え?」
「おれの好きはそういう好きじゃないんだ」
「じゃあ……」
「愛している、の好きです」
吉岡は保住の返答を待たず、そのまま彼をソファに押し付けると唇を重ねた。
「吉岡……?」
「こういう好き。分かってもらえます?」
彼は、きょとんとしていた。
そして返答もない。
「保住さん?保住さん?なんとか言ってくださいよ。嫌とか、お断りとか、気持ち悪いとか……!」
今晩預かると言ったのに、待ち切れないだなんて。
ここでお断りされて、気まずいまま一晩一緒にいるだんて信じられない。
どういうことなのだ自分。
吉岡は赤面した。
しかし、保住から視線がそらせない。
まっすぐに彼を見据えたまま、穴があったら入りたいモードで赤面していた。
「どうして……」
「どうしてって、だから。おれは保住さんが」
「どうして悪い返答しかおれに求めないのだ?」
「だから、って?……え?」
保住はそっと腕を伸ばし、床に膝をついて彼を見上げている吉岡の頬に手を当てる。
「国に行って、深夜残業や徹夜が続く中、体調も悪くてしんどい時に、思い出したのはお前だ。吉岡」
自分?
保住は、この2年間、自分のことを考えてくれていた……?
目を瞬かせて、じっと保住を見つめ続ける。
彼もまた、吉岡を真っ直ぐに見ていた。
彼の瞳に映る自分は、若い頃の自分に見える。
それは、ちょっと前の……。
「お前に会って『大丈夫』って言ってもらえたらと夢にまで見たものだ。これって、どう言うことなのだろうと、悩んでしまったこともあった」
保住は苦笑する。
「馬鹿みたいだろう。うら若き乙女でもあるまいし。こんな気持ち、どうしたらいいのかなんて、遥か昔の話だ。ああそうか。梅沢に戻ったら、お前の顔を見なくては。そんなことを考えていたのに。忙しいのと、体調が優れなくて、そこまで出来なくて……」
保住の口から飛び出す言葉は、吉岡にとったら夢物語のような。
耳を疑う話で。
でも、真っ直ぐに絡み合う視線は嘘ではない。
「はっ、頭でもイカれたのだろう。死を目前としている馬鹿な男の独りよがりだ」
彼は自嘲気味に笑う。
これで終わり。
そんな言葉だ。
「気にしないでくれ。すまない。お前もそんなこと、きっと気のせいだ。おれの言葉など聞き流して欲しい」
「保住さん」
保住も自分のことを考えていてくれた?
そう思っただけで胸がゾクゾクする。
吉岡はそのゾクゾクを抑えたくて、更に保住を引き寄せる。
「吉岡……っ?」
「好きなんです。保住さん。もう離したくない」
吉岡は、そっと保住に口付けを落とす。
口では否定的な言葉を並べても、自分の腕に添えられた彼の手が、シャツを握るのを確認して、それだけで彼が自分を受け入れてくれるのだということを理解する。
愛おしい。
愛おしい。
愛おしい。
10年以上も胸の奥にしまっていた感情を抑えなくていいという開放感。
一度表出してしまったこの感情を引っ込めることは不可能だ。
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