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18.生きているということ
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吉岡にしがみついて、情けないはずなのに。
心がこんなに満たされたことがあるのだろうか。
吉岡の手が自分の体に触れるだけで、心が震える。
「だっ、だめだっ」
「止められませんよ、保住さんっ」
口づけを交わしながら、胸を、腹を、腰を……撫でられていくその感覚は、薄ぼんやりとして、魂の抜けたような時間とは違う。
告知をされてからと言うもの。
何を食べても味がしない。
何に触れても感触が得られない。
妻の泣いている顔も。
病院スタッフの気の毒そうな視線も。
見舞いに来た上司の腫物に触るような態度も。
全部が他人事のように見えていたはずなのに。
吉岡に再会した途端。
時間が動き出したみたい。
今まで感じられなかった感覚が、全て嵐のように押し寄せてきた。
痛さ。
辛さ。
寂しさ。
後悔。
そして、生への執着。
死を前にして、欲深くなるものなのだろうか?
もっと生きたい。
もっと。
もっと。
そして、そう感じさせてくれるのは、吉岡。
「はっ、はぁっ……、あ、あっ」
病だけではない。
国に行った2年間もそうだ。
生きる屍のように、ただ無我夢中で働いた。
梅沢のために。
送り出してくれた人達のためにと。
抑圧されていた、生への執着。
様々な欲求が。
なりふり構わず溢れ出す。
彼の手の中で、熱を浴び、何度となく溢れかえる自分の身体はおかしくなっているのではないかと思う。
ぬちゃぬちゃとねっとりとした音が耳につく。
「可愛すぎます。保住さん」
情欲に支配された吉岡の視線は、今まで感じたこともないもの。
だけど、そんな彼が愛おしい。
吉岡とこうしていたい。
沢山の刺激。
沢山の感覚。
沢山の思いが。
生きていると実感する。
「繋がりたい……」
耳元で囁かれる。
身体の奥が疼いた。
同じ。
「おれもだ。……吉岡」
辺りは薄暗くなってくる。
昼下がりだったのに。
一体、何時間こうしていたのだろう。
体力は限界なはずなのに。
膝の裏を抱え上げ、保住の足を肩に掛けると、吉岡は自分のものを彼の後孔に押し当てた。
今まで、人のものを受け入れたことなんてない。
頭のどこかで「無理」、「ダメ」と言っている声も響いているのに、そんなものは関係ない。
「きつい」
「どうしたらいいのか、分からない」
「大丈夫です。おれに任せて。っていうか、保住さんでも分からないことってあるんだ。何だか嬉しい」
「なっ!……馬鹿にするな……っ」
文句を言った瞬間。
吉岡が笑う。
「やっと保住さんらしくなった」
「え?」
吉岡は、そっと保住の口元のほくろを撫でる。
「これ、好きです」
「な、何?」
「ここのほくろ。なんか唆られる」
「お前ね!そんなこと……っ」
吉岡は、悪戯に笑うと、体を伸ばして保住の左耳を噛む。
「ふっ……ッッつっ」
「ああ。耳、感じるんだ」
「や、やめ……ッ」
耳孔に舌を挿し込んで舐めあげる。
「ふっふぁッ」
緊張が一気に溶けた時。
吉岡のものが体内に入り込んできた。
「つッ……ッ!!」
「ヤバイ、あったかくて、気持ちがいい」
「や、吉岡ッ!」
目の前がチカチカするのに。
感触を確かめるかのようにゆっくりと、拍動している様が体内から伝わってくる違和感。
なのに。
繋がっているそこが、痛みよりもなによりも。
「嬉しい……」
「はあ、はあ、おれもです。保住さん……ッ」
きっと。
ずっとこうしたかったんだ。
吉岡はそう思う。
あの時から。
机を並べて一緒に仕事をしていたあの時から……。
保住の目尻から涙が溢れた。
「あ……んッ」
「は、はあ……っ」
好きだ。
この人が。
好き。
無声映画みたいな世界を、生きていると教えてくれる吉岡が。
人生を彩り、青春をくれた保住が。
二人の逢瀬は、終わりなどこないのではないか。
この世界で二人だけだったらどんなにいいだろう。
だが。
何事にも終わりは来るものなのだ。
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