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26.曖昧と愛情
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抵抗とは捉え難い、小さな抗いをかわして、十文字は、天沼をベッドに下ろした。
彼の腕が離れた瞬間は、天沼にとったら逃げ出せる最後のチャンスであるにも関わらず、彼はそこにいた。
否定ではない。
肯定だと、そう理解して口元を緩める。
「天沼さん、いいですね?」
「なんで、なんで聞くの?」
「だって、おれ。一応、合意がないセックスはしたくないですから」
ハッキリとこれから行われるであろう行為を言葉にしてやると、天沼はこれでもかと顔を赤らめた。
「思春期でもあるまいし。そんな恥ずかしそうにするのやめてください。こっちが恥ずかしくなる」
ネクタイに指をかけて引き抜き、それから、天沼の上に覆いかぶさるようにベッドに上がり込むが、彼はただそこでじっとしているだけだった。
あんまり反応がなさすぎて、不安になった。
いつもなら、「十文字のバカ」とか言って、足蹴りでもしてきそうなものだが……。
天沼は、泣きそうな顔をして、ただ十文字を見つめ返してくるだけだったのだ。
「天沼さん?」
「は、初めてなんだ」
「女性との経験はあると豪語していましたけど?」
「だからっ! 男とって事っ!」
「それはそうでしょうね。経験者だったら、もっと色っぽい反応するでしょう?」
「だっ、だから!」
「それだけですか? 言うこと。おれの話分かります? 嫌な奴を犯すのは好きじゃない。おれ、男は好きですが、社会的規範は守るんで」
十文字の下で固まってしまっている天沼は、精一杯なのだろうなと、内心思う。
両手をぎゅーっと握ってから、今にも泣き出しそうな瞳で十文字を見上げているからだ。
断るだろ?
ここまでしたら。
そう予測して、本当はやめたくないけど、いつでも彼の上から退くのだと決めて、天沼の言葉を待つ。
しかし、彼は意外な事を言い出した。
「十文字は、おれのことちゃんと見てくれる?」
「は?」
「は? じゃないしっ! だから、ちゃんと見て、欲しい。おれと言う人間を。好きも嫌いも別として、ちゃんとおれの本質を見てくれる?」
家族にも属せない。
仕事に依存して、心を支えている男が、こうして自分に存在価値を見いだして欲しいと懇願するのか?
見ているよ。
十分理解した。
彼は自分で、自分は彼。
重なる部分もあれば、相容れない部分もある。
それが複雑怪奇な人間の生き様。
「見ていますよ。今も、これからも。おれは、あなたに夢中だ。恋しているみたいだ。年甲斐もなく、ドキドキして戸惑っています」
十文字の胸も高鳴っているが、きっと、天沼も同様なのだろう。
目元が上気して、瞳が潤んでいる。
彼もまた、きっと自分に恋をしてくれているに違いないと確信した。
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