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12.メールと後輩
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目覚ましの音に体を起こす。
カーテン越しの外は、すでに明るくなっていて、人が動き出している雰囲気が伝わって来る。
新しい環境のせいで、疲れが抜けないのだろうか。
――もう少し寝ていたい……。
十文字は頭を抱えてため息を吐いた。
「……もう朝かよ」
時間を確認しようと、枕元に投げ出されているスマホを取り上げて画面を見ると、メールが届いていた。
――夜中にメールを寄越すなんて誰だろう?
そういえば、親友の森合が転勤で市内に戻ってきていたことを思い出した。
森合は時間構わずに思いついた時にメールや電話を寄越すタイプだから、彼を思い出したのだ。
新年度になり、仕事も忙しいし、心の余裕もないしで、高校時代の親友が経営しているカフェにも足を運んでいないことを思い出した。
「そろそろ行かないと怒られるな」
そんなことを呟きながらスマホを開いて、はったとした。
「……っ!」
驚いてスマホを落としそうになって、慌てて持ち直す。
「天沼さん……」
『夜分にごめんね。連絡しなくてすみません。元気でやっていますか? 事前に話していた通り、メールを見たり送ったりする時間もあまりありません。仕事に夢中になっているわけではないんだけど……心に余裕がないのかもしれません。愚痴みたいなメールでごめん。こちらは元気です。また会える日を楽しみにしています』
受信は深夜の3時半だ。
「こんな遅くに」
自宅なのだろうか。
それとも職場?
いらっとする気持ちがわき起こる。
「本当にバカなんだから……」
十文字はスマホをベッドに放り出すと着替えを始めた。
今度会ったらがつんと言ってやらなくちゃ。
イラつく気持ち任せに身支度を済ませた。
***
階段を駆け上がる。
天沼のメールを見たせいで、嬉しい気持ちがある反面不安が募った。
自分の勤務部屋とは反対、左の廊下に視線を向けると、秘書課のあたりは電気が煌々と着いている。
毎朝の日課だ。
眺めても彼を確認することなんてできるはずなのに、必ずそちらが気になってしまうのだ。
天沼はもう出勤しているのだろうか。
なんだか住む世界が違う気がしてがっかりした。
「おはようございます」
軽くため息を吐いてから、振興係の扉を開けると冨田が立ち上がった。
「おはようございます」
出勤しているのは彼だけだった。
「早いね」
「十文字さん。あの企画書の案を考えたんです。みてもらえませんか?」
「もちろん。徹夜でもしたんじゃないだろうな」
「徹夜ではないですけど。かかりました……」
彼は、ほっぺを赤くして恥ずかしそうにA4の紙を一枚出す。
荷物を置いてからさっそくその書類に目を通した。
「ど、どうですか。十文字さん」
「悪くないけど。この企画は前にもやったなあ。もう少しオリジナリティのあるやつを考えないと」
「はあ……」
「お前、音楽やったことあるの?」
「え……実は、吹奏楽をやっていまして」
この体型だ。
運動系はやっていないこと間違いないだと思ったが。
楽器か。
十文字は質問を続ける。
「楽器ってなに? チューバ?」
「ああ〜。それ。顧問の先生と同じ反応です」
冨田は苦笑した。
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