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絵本を読んで遊んでいると、小夜の携帯が震えた。
「え・・・。」
弁護士の先生からの電話で、全身総毛だった。
「も、もしもし。」
『良かったね、不起訴になったよ。嫌疑なしだ。』
へなへなと崩れ落ちた。
不起訴って言ったよね。
「て、ことは・・・。」
『無罪。前科が付かないからね、先生になれるよ。』
そこから先のことは、あんまり覚えていない。
気がついたら美湖ちゃんと美湖ちゃんのお母さんから抱きしめてもらっていて、おれは涙を流して震えていた。
「良かったわね、本当におめでとう。」
「・・・あ、風見さん。」
「ふふ、電話してたわよ。」
携帯を見ると、確かに発信記録があった。
「お、れ、ちゃんと話してましたか?」
「ええ、お話してたわよ。」
そう、なんだ・・・。
記憶が飛んでて、覚えていない。
良かった、痴漢じゃないって、ちゃんと結果が出た。
「・・・あ、学校。」
慌てて学校に電話して、事務長先生に代わって貰った。
『良かったね、弁護士先生から先程連絡がありましたよ。』
「あ、りがとうございます。」
実習に参加できるよう調整してくれる約束を貰って、おれは涙が止まらなかった。
電話を切った後、おれはふたりに断って家を出た。
篠崎司法書士事務所に行くためだ。
痴漢で逮捕された時、力を尽くしてくれた事務のおばさん。
そして、弁護士さんを手配してくれた先生に直接お礼を言いたかった。
小夜ちゃん小夜ちゃんと可愛がってくれる近藤夫妻も、加藤さん石田さんにも、直接お礼を言いたかった。
ずっとモヤモヤしていた数週間、ようやく嫌疑も晴れて、ホッとした。
ピロン。
『小夜、どこ?家にいる?』
風見さんからのメッセージだ。
『今、家を出たところ。事務所にお礼に行こうと思って。』
『じゃあ、駅で待ち合わせしよう。俺も今から出る。』
風見さんには、心配をかけた。
あの時の事を思い出すと、胸がキリキリと痛む。
『うん、ありがとう!』
3月までしていた「いってらっしゃい」のセレモニーの場所で待ち合わせした。
風見さんとは電話で話した記憶が飛んでいたから、正直、出てきてくれると言ってくれて嬉しかった。
「小夜、おめでとう。」
ずっと心の中に沈んでいた澱が、ようやく流れた。
泣いても泣いても、涙が枯れることはなかった。
風見さんの笑顔を見たら、もう、ダメだった。
風見さんの知り合いのいっぱいいる街なのに、しがみついて泣く事をやめれなかった。
風見さんは震えるおれを、優しくあやしてくれて、その優しさがまた更に涙を誘った。
「うぅ・・・っ!」
「頑張ったね、小夜。頑張った。」
いつもどこか頭にあった。
もし、送検されたら?
もし、前科がついてしまったら?
考えないようにしながら、毎日怯えて過ごしていた。
「ほら、忍者が泣いちゃダメだよ。」
ブフッ!
風見さんの呑気な言葉に、吹き出した。
「そうだった。昨日、忍者になったんだった。」
「そ、忍んだよ。」
ふふ。
もう、風見さんに掛かったら、あっという間に笑い話になっちゃう!
涙を拭うと、小夜は笑った。
「お菓子、買って行きたい。」
「だな。とびっきりのお菓子を買って行こう!」
「うん!」
良かった、嫌疑は晴れた。
これからも毎日ひたむきに頑張ろう。
そう思いながら、小夜は風見のスーツの裾を握ったのだった。
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