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ふふ。
小夜ちゃんの事件が解決した。
可愛い娘の姿を見ながら、冴子は微笑んだ。
加藤くんからの連絡と前後するように、敦さんから連絡が入った。
敦さんもずっと気にしていた誤認逮捕。
何度かあのヘラヘラしていた男とも連絡を取っていた。
「だから、さっさと印鑑押せばいいだろう?」
『そう簡単に言うなよ。俺のところまで上がってくるような事件じゃないんだって。』
漏れ聞こえてくる会話。
お互い狸らしい、のらりくらりとした会話にキレそうになりながら、黙っていた。
私なら、叱りつけるのに。
歯痒い。
『まあ、顔を出して、無言の圧力を掛けておくよ。』
部下たちは、たまったもんじゃないだろう。
敦さんも肩を竦めて笑っていた。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られるんだそうだ。」
『ん?その馬って、お前の奥さんか?』
テレビのリモコンを手に取った。
「おいおい、うちのお嫁さんはか弱いレディーだよ。だが、本気で蹴ったら、警察署なんて木っ端微塵に砕け散るだろうな。」
投げつける真似をすると、敦さんが焦った。
「俺の首が繋がっているうちに、さっさとしてくれよ。」
『はいはい。綺麗な嫁さんで良いな。』
「だろう?世界一可愛くて、世界一噛み付く可愛い子猫なんだ。」
電話の向こうは、さんざん罵った後電話が切られた。
「誰が噛み付くんですって?」
「うちの可愛いお嫁さんだよ。この奥さんは、可愛くて堪らないね。」
本当に、もう!
怒っていいのか、笑ったほうがいいのか分からない。
だけど、大切に思ってくれているのは充分に伝わった。
そんな会話をしたのは昨日だった。
良かった、本当に。
ピロン。
『これから君のところにも挨拶に来るらしい。』
ふふ、敦さんからだ。
ピロン、ピロン。
『冴子さん、いまから伺ってもいいですか?』
『赤ちゃん大丈夫な居酒屋らしいっす。』
続けて小夜ちゃんと加藤くんからメッセージが入った。
『気をつけて来てね。』
小夜ちゃんに返信したあと、ゆっくりと加藤くんからメッセージを読んだ。
ふふ、この日程は、きっと小夜ちゃんが決めたんだと思う。
赤ちゃんの1か月検診があった後だ。
新生児が外出できるのは、産まれてからおおよそ1か月後。
ちゃんと考慮した日程に、彼の優しさを感じた。
『母子共に、参加させていただきます。』
そう送ると、立ち上がった。
小夜ちゃんが喜んでくれそうなお菓子を用意するためだ。
残念ながら、母乳の出は悪かった。
高齢出産だから、それも想定内だ。
さっき飲ませた粉ミルクで、お腹いっぱいの娘は、いまはすやすやと天使のような顔で寝ていた。
まさか私が結婚、出産するなんて思っていなかった。
全てを捨てる勇気を出したところで、思いがけず幸せを手に入れることができた。
全部、小夜ちゃんのおかげ。
背中を押してくれたから、今の幸せがある。
小夜ちゃんが幸せになれますように。
大好きな人と共に過ごす幸せは、心が安定した。
敦さんの部屋を見渡した。
私の部屋、手放そう。
そして、もう少し広い部屋に住みたい。
近くに公園があって、桜並木があるような素敵な場所はないかしら。
そんなことを考えながら、冴子は静かにカップを取り出した。
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