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学芸員の方がたたずむ展示室は、鮮やかな色に輝いていた。
沖縄の鮮やかな染物、織物が目を楽しませてくれた。
腰に回った手は離れたと思ったら、そっと添えられる。
ドキドキして、解説のプレートは殆ど頭に入らなかった。
「これ、貴志に似合いそうだ。」
「俺・・・?」
言われた衣装は、首里織の柔らかな新緑の織物だった。
「春の風の色・・・。」
ポツリと呟いた言葉に、トオルさんは嬉しそうに目を細めてくれた。
し、心臓に悪い・・・!
ぎゅっとシャツの裾を握ると、トオルさんの手が添えられた。
「皺になるよ。」
そう言って手を握られた。
ああ!
死んでもいい!!
例え、皺にならないように抑えられただけだとしても、トオルさんの手の温かさが、ひんやりとした館内ではとても心地良くて、貴志はそっと握り返した。
・・・握り返してくれた。
トオルは、勇気を持って貴志の手を握った。
どうせシンガポールに帰る身だ。
玉砕覚悟で、手を握ったのだ。
あぁ・・・もしかして、貴志もその気があるんだろうか。
緊張して、心臓が喉から飛び出しそうだ。
大人になって、こんなに緊張したことは久しぶりだった。
「これ、トオルさんに似合いそう・・・。」
宮古上布の濃いグレーの織物だった。
「ああ、落ち着いた色合いだな。・・・綺麗だ。」
貴志が、綺麗だ。
潤んだ目が、好きだと言ってくれている気がする。
上気した頬が余計に若い肌を輝かせている。
「・・・今度、着物着て歩こうか。」
「うん。」
貴志の乾き始めた黒髪。
うなじの髪がシャツの襟に当たって跳ねかけている。
そっと抑えると、貴志が目を丸くして俺を見つめた。
ああ・・・。
そのまま首を引き寄せる。
唇から目が離せない。
貴志の震えるまつ毛が、緊張を窺わせた。
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