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無くなった花屋 <Side 帝斗
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訪れたそこに、あるはずの花屋は、なかった。
“テナント募集”と書かれた紙が、貼られているだけだった。
手にしていた透明な袋に包まれた【防散スカーフ】を、きゅっと握り潰す。
運命を捩じ曲げるものを作っているんだ。
運命に裏切られたって、なんの不思議もないじゃないか……。
黒羽製薬のラボに戻った俺、黒羽 帝斗(くろはね ていと)に、皆が一様に頭を下げた。
俺が歩く道は、自ずと開かれた。
人波が、左右に別れていく。
濃いグレーの【遮断マスク】に、グレーの革手袋、真っ黒なスーツに、真っ黒なシャツ。
床を踏むコツコツとなる黒光りする革靴の音は、周りの人間の背筋を凍らせる。
耳や頸、少し顔を傾けるだけで瞳までもを隠すほどに伸びた真っ黒な髪。
髪に見え隠れする瞳は、細い切れ長の一重で、薄い唇が弧を描けば、悪魔の笑みと称された。
俺は、認めていない人間に対し、畜生でも相手にするかのような冷酷な態度を取っていた。
使えない人間は、次々に始末してきた。
理不尽に気分で、処罰を加えてきた訳じゃない。
不利益をもたらすと判断した存在を、排除していただけだ。
ただ、いちいち気紛れではないと釈明するのも面倒なので、気分屋だと称されようが放って置いた。
結果、俺は、気に食わない人間を簡単に切り捨てる傍若無人な悪魔と認識された。
俺の機嫌を損ねれば、次は自分が切り捨てられるのではないかと、周りは戦々恐々となっていた。
恐れられていようが、嫌悪されていようが、数多の血で穢れていようが、世間の目など、どうでもよかった。
……霙(みぞれ)に出会うまでは。
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