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惹かれたのは、運命のせい
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妃羅が入院してから2週間ほどが経った頃。
病院への道すがら、1軒の花屋に目が留まる。
見舞いに行くには花束だろう…などと、ありきたり過ぎる思考で瞳を向けたわけではない。
それに、見舞う相手は、妹だ。
飾った花など必要はない。
でも俺は、その花屋から目が離せなくなった。
白いハイビスカス…、あまり店頭に並ぶコトの無い妃羅の好きな花が売られていた。
店の中に見えたそれに目が留まったのだろうと感じていた。
白いハイビスカスの花言葉は、“艶美”だ。
艶の名が入る花言葉に、運命は2人を惹き寄せる。
αに弄ばれ、心を失ってしまったかのような妃羅を、艶は番にはしなかった。
ただ、会いたくなったら来てほしいと、妃羅にかけていた俺のジャケットのポケットへと名刺を入れた。
艶がポケットへと入れた名刺を、俺は隠した。
妃羅の事件の記憶は、あやふやだった。
助けに来た艶のコトも覚えていないようだった。
そんな妃羅が艶に会い、再び辛い記憶に苛まれるのは、何としても避けたかった。
忘れているのなら、わざわざ、思い出させるコトもない。
思っていたのに、俺の瞳は、花屋から逸れていかない。
胸底が、ざわつく。
白いハイビスカスではなく、見えない何かに惹かれるように、俺は花屋に足を踏み入れていた。
濃いグレーの【遮断マスク】。
開発開始から2年経ったその時点でも、Ωのフェロモンを完全に遮断するコトは難しく、データを蓄積するために、常に着けて歩いていた。
花屋に足を踏み入れた俺の頸に、チリチリとした痺れを感じる。
俺は、無意識に頸を擦っていた。
「大丈夫…?」
薄い茶色の長い髪が、視界の隅で揺れた。
艶やかに揺蕩う髪に、自然とその先を瞳で追う。
右肩の上で髪を束ねる白い髪ゴム。
更にその上から、心配げな瞳が俺を見やっていた。
視線を交わした瞬間、胸の底が沸騰した。
ドクドクと激しく拍動する心臓に、呼吸するコトすら忘れそうになった。
「っ……」
詰まるような音を放った目の前の人物は、指輪のついている左手の薬指を擦った。
【遮断マスク】の効果がないのかと、瞬間的に疑った。
でも、今まで、発情期のΩを目の前にしても、【遮断マスク】を着けている俺の神経が興奮状態になるコトはなかった。
いつも平静を保っている俺の心臓が、早鐘を打ち続ける。
微かな隙間から香るフェロモンに、心臓を撃ち抜かれた気がした。
息を吸い込むことすら、辛くなる。
運命との出会い……。
目の前に居るこのΩが、俺の運命の相手…、だった。
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