アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
釣り合わない運命
-
見詰める息苦しさに、ハイビスカスの花へと視線を逃がした。
「白いハイビスカスを入れて、花束を作ってくれないか? 他は適当に見繕ってくれ」
絞り出すように言葉を放つ俺に、彼の手がハイビスカスへと伸びる。
彼は、シンプルな銀色の指輪が光る左手の薬指を擦りながら、ハイビスカスを手に取った。
俺たちαは、Ωのようにフェロモンを放っているわけではない。
直に接触しなければ、Ωが、香りだけで[運命の番]だと確信することは稀だ。
たぶん、俺が運命の相手だとは気付かれていない……。
「……贈り物、ですか?」
体調の悪そうな俺を心配しながらも、手際よく、ハイビスカスや他の花を手に取っていく。
花を手許に集めながら、時折、指輪の嵌まる指を擦っていた。
「見舞いだ。過度にならない程度でいい」
俺の言葉に、何本かの花を手に取ったその人は、きゅっとまとめ上げバランスを確認する。
すべてが綺麗で、すべてが白い。
透明に近いその肌は、俺が触れるコトを拒絶している気がした。
触れた場所から真っ黒に染めてしまいそうで、…怖くなった。
俺は、ジャケットのポケットに入っていた灰色の革手袋に指を通す。
「霙。奥で休んでいいよ」
声を掛けられ、まとめた花を戸惑いがちな瞳で見やる霙。
霙…って、言うのか。
溶けかけの雪のような儚げな名に、あまりにも似合いすぎる名に、じんとした感覚が心を震わせる。
近づく男に、霙の匂いを消し去られ、香水の臭いが、ぶわりと広がる。
胸許で束ねられている花に右手を伸ばした男は、空いている左手で霙の背を押す。
隠すように、霙を奥へと下がらせた。
背を押す男の左手薬指にも、霙と同じシンプルなシルバーリングが光っていた。
婚姻の印である左手の薬指に嵌まる指輪。
その指輪は、愛の証だ。
霙を奥へと下がらせたこの男は、βだろう。
この2人は、愛し合っている。
運命だろうが、何であろうが、関係ない。
霙には[運命の番]など…、俺など不必要なのだ。
それに、こんな薄汚れた俺は、霙に相応しくない……。
霙から花束を奪うように手にした男は、さっと花をまとめ、俺へと差し出し、料金を請求してきた。
料金を支払い、花束を手に俺は、その場を後にした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 116