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遅すぎた出会い
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霙の幸せの邪魔をしたい訳じゃなかった。
でも、その姿を見たくなり、病院からの帰り道で、カフェに寄るのが日課になっていた。
花屋の正面、通りを挟んだ向かいの2階にあるカフェ。
道路を見渡せる席につき、霙が出てくるのを待っていた。
外に出している鉢植えに水やりをする姿を、遠目に眺める。
屋内から出てきた男と楽しそうに話す霙の姿に、幸せな気分になる反面、隣に立つのが自分じゃないコトに、悔しさも湧く。
左手薬指に光るお揃いの指輪。
幸せそうな笑顔。
それをもたらせるのは、俺じゃない。
俺の出る幕じゃない。
楽しげに話すその姿に、キリキリとした痛みを生む胸に、視線を手許に戻す。
自分の手に、ぽたりと1滴の血が落ちる。
それは、段々と大きくなり、俺の手は真っ赤に血塗られていく。
広がった真っ赤な血は、徐々に真っ黒に変色する。
俺の視界を、真っ黒に染まった手が、埋め尽くす。
こんな真っ黒に穢れた手で、霙に触れられる訳がない。
ポケットの中から灰色の革手袋を取り出し、穢れを隠す。
俺が求めるのは、[運命の番]の幸せであり、霙本人じゃない。
どうせこの薄汚れた手じゃ、笑顔にも、幸せにも、してはやれない。
今さら後悔したって、今さら罪悪や背徳を抱えたって、……もう遅い。
俺は、35歳を過ぎるまでは、責任のない立場で、会社に関わるはずだった。
でも昨年、28歳にして“専務取締役”という表の重責な役職を与えられた。
昇進なんかじゃない。
私情で黒羽家の人脈を動かし、妃羅を苦しめたαの男へと与えた制裁。
身勝手すぎる利己的な俺の行いに、祖父の仕置きが下ったのだ。
裏で自由に動いていた俺は、表に顔を出し、会社を動かしていくという責務を負わされた。
責任という枷が、俺の自由を狭めた。
祖父の人脈を、次々に紹介された。
数年後には、黒羽製薬を背負って立つコトになる。
すべての仕事に、手を抜くコトなど出来ない。
慌ただしくなる日常に、花屋を眺めに行く時間すら取れなくなっていた。
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