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再びの判断ミス
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退院した妃羅は、俺の補佐として、黒羽製薬で働くようになっていた。
もちろん、大学は退学させた。
最新の【遮断マスク】の性能調査の為に、縁をラボへと呼んだのが、まずかった。
祖父との話が長引き、なかなかラボへと戻れなかった。
妃羅に、縁のために製作した【遮断マスク】を渡すように頼んだ。
その時、縁は艶の探偵事務所の名刺を持っていたらしい。
それは、巡り巡って縁の手に渡り、妃羅の元へと届いた。
祖父との話を終え、ラボに戻り、別館にある専務室の椅子に腰を下ろした。
別館にある俺の部屋が、そのまま専務室となっていた。
座った瞬間に扉がノックされ、返答する間も無く、妃羅が乗り込んできた。
真っ赤な瞳で俺を睨む妃羅は、子供のような膨れっ面だった。
「どうし……」
「隠したでしょ?」
泣き腫らしたような瞳の妃羅に、焦り言葉を紡ぐ俺。
被せるように声を放ち、ぷくっと頬を膨らませ怒ってますアビールをする妃羅に、俺は眉根を寄せる。
「名刺、隠したの兄さんでしょ?」
胸許に抱えていたタブレットの上に乗せていたであろう一枚の名刺を顔の横に掲げた妃羅は、じとっとした瞳を俺へと向ける。
妃羅が持ち上げた名刺に、瞳が止まる。
「それ……っ」
『犬飼』の名を認識し、思わず立ち上がる。
それを奪おうと伸ばした手は、空を切る。
妃羅は、俺から逃げるように、数歩後ろへと下がっていた。
「思い、…出したのか……? 」
あの時の悲惨な記憶。
胸が潰れるような哀しい想い。
艶の名刺を手にした妃羅が、再び塞ぎ込んでしまうのではと、気が気じゃない。
「私が…、甘かったんだよね。優しくしてくれた先輩だからって、何も疑ってなくて……」
失敗しちゃった…と、ちょっとしたドジを踏んでしまったとでもいうように、妃羅は、照れたように微笑んだ。
「妃羅は悪くないだろっ」
ぐっと寄る眉間の皺に、声が荒くなる。
取り乱す俺に、ふっと小さく息を吐いた妃羅は、ぐっと口角を上げた。
「ありがとうね、お兄ちゃん。私のために、色々してくれて」
助け出したコト、辛い記憶を隠そうとしたコト、【防散スカーフ】を開発しているコト、黒羽家の地位を不動のものにするコト…、確かに総ては、妃羅のためだ。
だけど、感謝されたいから、恩を着せたいから、している訳じゃない。
「当たり前だ。俺はお前の兄だ。お前を守るのは、当然だろっ」
ふふっと小さく笑った妃羅が口を開く。
「だからって、艶ちゃんの名刺隠しちゃうのは、どうかと思うけど?」
妃羅は再び、ぷくっと頬を膨らませた。
お前たちの運命を、…幸せを邪魔したい訳じゃない。
ただ、…妃羅には幸せに、平穏に暮らして欲しかっただけで。
責めるような妃羅の瞳に、俺は、たじろぎながらも、言い訳を紡ごうと口を開く。
「それは……、」
「私は、艶ちゃんに会いに行くっ」
言い切る妃羅の意思は固い。
「兄さんが、ダメって言っても、行く。艶ちゃんが待っててくれたら、お嫁に行くから。止めたって無駄だからね」
ふいっと顔を背けた妃羅は、様子を窺うようにちらりとした視線を俺へと向けた。
俺は、妃羅の態度に諦めの息を吐くしかなかった。
「わかった。もう、何もしない」
降参の意思を表すように、俺は両手を上げた。
きゅっと細くなった妃羅の瞳は、綺麗な弧を描いた。
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