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広がる空虚
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妃羅は、[運命の番]である艶の元へと行ってしまった。
俺は、守るべきものを失った。
良いコトなんだ。
妃羅が幸せに暮らせるなら、それが一番だ。
そう自分に言い聞かせた。
でも。
家の繁栄に尽力するコトも、【防散スカーフ】の開発も、なにもかにもが無駄だと感じずには、いられなかった。
ぽっかりと空いた心の穴。
不意に、頭に浮かんだのは霙の笑顔だった。
それは、俺に向けられたものじゃない。
それでも、霙の笑顔は俺の心を和ませるには、充分だった。
研究自体を中止してしまおうと思っていたのに、無意味だと感じた【防散スカーフ】の改良に没頭している俺がいた。
俺は、無意識のうちに、霙との接点を探っていたのだ。
βの男とΩの霙では、番になるコトは叶わない。
発情期のフェロモンで、意図せずにαを引き寄せてしまいかねない。
そうなってしまえば、あのβの男も、霙も、誘惑されたαまでもが、要らぬ傷を負うだろう。
身を守るためにも、無用な傷を負わないためにも、……霙の幸せのために【防散スカーフ】は必需品だと感じていた。
それに、何かをしていれば、心の隙間も少なからず埋まる気がした。
霙に、会いたくなる……。
会話も出来なければ、視線すら交わらない。
“会う”という表現とは、程遠いのかもしれない。
それでも、少しでもこの寂しさで空いてしまった穴を埋めたかった。
霙の恋の邪魔をするつもりはない。
本当に、霙の姿を見られるだけで良かった。
……はずなのに。
心は、いつの間にか欲張りになっていた。
見るだけでは飽き足らなくなっていた。
検体を願い出ればいい。
それは、欲張りになった心が出した答えだった。
【防散スカーフ】を身につけるコトで、霙が不利益を被ることはない。
検体の依頼をしても、断られるコトはないだろうと踏んでいた。
性能を高めた【防散スカーフ】を持ち、霙の元を訪れた。
……でも。
花屋は潰れ、霙は居なくなっていた……。
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