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見えない場所へ
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ラボに戻り、別館の専務室に戻る途中で、俺の携帯が、音を立てた。
―― 近衛 賢理(このえ たかみち)
数週間前に紹介された近衛家の次期当主となる賢理からの着信だった。
近衛家は、誰もが知る名家だ。
この世の中で近衛の名を知らないヤツはいない上に、逆らおうとする者もいない。
それほどまでに権力のある家柄だ。
「もしもし」
「帝斗さん?」
何となく遠慮がちに俺の名を呼ぶ賢理に、あぁと、小さく声を返した。
近衛家は、αへの執着が強く、子供でもβやΩの判定を受けたものは、遠い親戚に里子に出されていた。
5人兄弟の中で、末っ子の賢理だけがαの判定を受け、βの判定を受けた兄たちは、近衛家から出されていた。
Ωと番になるコトも許されず、近衛の名を持つ者たちは、すべてαの者ばかり……だった。
何があったのかは知らないが、近衛家はαへの執着を断ち切ったらしい。
賢理は[運命の番]を見つけ、Ωの彼と番になっている。
βの長子、瀬居 幸理(せい ゆきみち)も、近衛の姓には戻っていないものの、当主補佐として紹介されていた。
ちらりと腕時計へと瞳を向ける。
近衛家主催の懇親会が開かれている時間だ。
黒羽製薬の専務として、懇親会への招待を受けていたが、俺は断った。
世間的にダークな印象の強い黒羽家が顔を出せば、近衛家のイメージを穢しかねない。
「お願いがあるんですけど、【防散スカーフ】を1枚、用意してもらえないですか?」
遠慮気味に紡がれる賢理の言葉に、俺は、疑問に思うままの音で、声を返した。
「お前には必要ないだろう?」
[運命の番]と結ばれたはずの賢理が、【防散スカーフ】を必要とする意図がわからなかった。
不思議がる俺に賢理は、事の顛末を説明する。
兄の幸理の番がΩであり、βとΩでは番となれないために、【防散スカーフ】を用意して欲しいという内容だった。
話の最中、霙のために用意していた【防散スカーフ】を見やっていた。
このまま手許に置いておいても、仕方ない。
俺は、それを賢理へと届けるコトにした。
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