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幸せは消えていく
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ホテルのエントランスで落ち合うように約束し、電話を切った。
タイミング良く、ラボを訪れていた縁を捕まえ、懇親会の会場であるホテルまでの送迎を頼んだ。
ホテルに近づくにつれ、行き交う人の波に、近衛家の人間が俺と接触するのは芳しくないと感じた。
妃羅が俺の元から去り、霙にさえも会えなくなった虚しさに、俺の考えが浅くなっていたのかもしれない……。
俺は、ホテルまで運転してくれた縁に【防散スカーフ】を差し出した。
届けて欲しいと頼む俺に、縁は、自分は行けないと突っ撥ねる。
訝しむ俺に、縁は、[運命の番]がこの会場にいると嘆いた。
俺が遠ざけ続けた運命は、それでも妃羅を飲み込んだ。
戻った記憶に幸せそうな笑顔を浮かべた妃羅の姿を思い返した縁は、運命には抗えないのかと悲壮感に打ちひしがれる。
いつも自信に満ち溢れていた縁の口から吐かれた弱音。
俺は、縁の泣き言を鼻で笑った。
運命も、そこまで強固なものではないと縁に告げた。
現に俺は、[運命の番]と結ばれていないのだ。
剰(あまつさ)え、姿すら…、影すら消えた。
艶と妃羅が結ばれたのは、お互いがお互いを必要としたが故だ。
存在の知らぬ相手に、焦がれるコトなど出来やしない。
まして、互いに運命とは別に愛する者が存在する。
そんな彼らの運命は、結ばれるためのものではないと感じられた。
運命なんて、この手で何とでもなるのだ。
【遮断マスク】も、【防散スカーフ】だって、運命に抗い捩じ曲げるためのもの。
最初は吾久の言葉から始まったものだった。
でも、研究すればするほどに、理に反するものなのだと感じずには、いられなかった。
運命を捩じ曲げるこの行いは、俺の幸せを消し去っていく。
歯向かった結果、俺を孤独にさせたのだ。
でも、それで良い。
俺は、霙が……[運命の番]が、何処かで彼と幸せに暮らせているのなら、それ以上は望まない。
俺が押した背中に、縁は運命に歯向かい続けると豪語した。
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