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言葉に出来ない疑問たち
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俺は霙の頬から、すっと離した手を膝の上で組んだ。
「暗城家からお前を借りた。暫く、こっちの仕事を手伝ってもらう」
俺の言葉に、霙は横たわったままに、きょとんとした瞳を向ける。
ゆるりと身体を起こした霙は、周りを見回しながら、疑問の声を上げる。
「こっちの…、仕事?」
こっちと称された場所がどこかもわからず、霙は、不安げに、不思議そうに言葉を紡いだ。
「あぁ、ここは黒羽製薬だ。名前くらい知ってるだろ?」
問い掛けに、考え事をするかのように視線を游がせた霙は、再び俺へと視線を戻す。
「製薬会社……ってコトは、治験か何か?」
沈んだ声色で問うてくる霙に、俺は曖昧な言葉を返した。
「まぁ、そんなところだ」
借りた検体が霙でなければ、俺は、何の躊躇いもなく治験に回していただろう。
でも、どんな副作用があるかわからない新薬を霙に投与するコトは、躊躇われた。
「お前……、花屋に居たよな?」
軽く眉根を寄せ、問う俺に、訝しげな声が返る。
「花屋はやってた、けど……」
不審げな瞳を向ける霙に、俺は質問を被せた。
「髪も、もっと長かったよな?」
自分の髪に触れた霙は、ぁあ…と小さく残念めいた声を零す。
「ウィッグに使えるからって切られたんだ……」
寂しそうに毛先を弄る霙の姿に、次の言葉が続かない。
なんで、暗城のところになど。
あのβの男は、どうした。
運命に抗い一緒に居ると誓ったんじゃないのか。
問いたいことは山程あるのに、俺の口は素直な言葉を紡げない。
「花を買いに行ったことがあるんだ」
覚えているはずもない出会いを語る俺。
霙は困ったように顔を歪ませた。
「ごめん。お客さんの顔、全員は覚えてない……」
当たり前だ。
何度も訪れた常連でもない。
俺が、あそこで花を買ったのは一度きり。
何人もの一見の中の1人に過ぎない。
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