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寄り添えない心
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「けど。貴方のコトは、少しだけ覚えているかも。ハイビスカスの入った花束じゃなかったっけ……?」
微かに首を傾げ問うてくる霙に、驚きがほんの少しだけ顔に出る。
「そうだ。結構、前だけどな」
俺の言葉に、霙は何かを思い出したように、くすりと笑った。
「あの後、少しだけ喧嘩になったから…。怪しい人が来たらオレを呼べって言われてたのに、僕が対応しちゃったから……」
ふっと呆れるような、嘲るような、笑いを零す。
黒ずくめの服装に口許を隠すマスク、それに瞳にまでかかる真っ黒な鬱蒼とした髪は、確かに怪しさしかなかっただろう。
顔を顰める俺に、霙は慌て言葉を繋いだ。
「ぁ……、怪しいってそういう意味じゃないよ」
ちらりと向ける俺の瞳に、霙は、小さく口角を上げた。
「貴方、αだよね……。僕、Ωで[運命の番]に出会ってないから。あいつに言わせれば、αの人は皆、怪しい人なんだよ」
ふぅっと溜め息混じりの息を吐く。
「なんで、俺がαだと……?」
βやΩで、ぱっと見で俺がαだと気付くなど有り得ない。
「一緒に居たあいつ、βだけど、鼻だけは良くて。匂いでバース性わかるみたいで……」
霙の瞳が、ふわりと逸れる。
一緒に居たβの男を思い出すように、記憶を辿るその瞳は、複雑な想いに揺らぐ。
「あの男がβだとしても、お前はあいつと将来を誓い合ってたんじゃないのか?」
責めるような音で紡ぐ俺の言葉に、霙は諦めを露にした。
「捨てられたんだよ。僕の素性と素行の問題……」
自嘲の笑みを浮かべた霙は、自分の右足首に嵌まる真っ黒なアンクレットを指先で撫でた。
「たくさんの男に抱かれてきたΩの僕は、あいつに相応しくなかった。それだけだよ」
困ったように落ちる眉尻と、達観したような笑みを乗せる唇。
こんな時に掛ける言葉を、俺は知らない。
痛みを共有するコトなど、出来ない。
人の気持ちなど、理解できる訳がない。
そうやって人に寄り添うコトをしてこなかった俺には、霙の心を軽くする言葉を見つけられない……。
「終わったら、戻れるんだよね?」
なんと言えばいいのかと思い悩み、声を詰まらせている俺に、霙が問いかけと共に首を傾げた。
あの陰湿で暗い場所に戻りたそうな雰囲気に、無意識に眉根が寄った。
「あんな場所に、戻りたいのか?」
有り得ない思考に、放つ声に棘が混じる。
驚きと苛立ちが混在する俺の表情に、霙は、戻して欲しいと強情るような瞳を見せた。
「戻ったら、お前に待ってるのは、死だぞ? ……あそこは、臓器を売り捌く場所だぞ?」
髪の毛を切られるのとは違う。
売られるのは、生きていくために必要な臓器だ。
身体中を切り刻まれ、跡形もなく消される解体処分場のような所だ。
顔を顰める俺に、霙は、諦観した顔で小さく息を漏らした。
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