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僕は頷けない
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卒業が近づき、周りは進学先や就職先が次々に決まっていった。
βの翠之との恋人関係を続ける僕に、父は愛想を尽かせた。
βの女性と結婚した父は、高校まで出させてやったのだから、仕事でもなんでもして独りで生きていけと、僕を家から追い出した。
Ωの僕の就職先は、なかなか決まらなかった。
なんとか内定をもらえたのは、βの年配の女性が1人で切り盛りしている花屋だった。
花屋の側にワンルームのアパートを借りた。学校では会えなくなった僕たちだけど、翠之との関係は続いていた。
翠之は春休みの期間中、ほぼ僕の部屋にいた。
明日からは、仕事に行かなくてはいけない。
四六時中、翠之と過ごせるのは、今日までだ。
「就職おめでとう」
シーツは皺だらけで、湿気っている。
部屋の中に充満する臭いは、独特な青臭さを纏っていた。
裸体のままに、持ってきたボディバックを探った翠之は、ベッドの上に横たわる僕の横に腰を据え、左手を取った。
僕の左手薬指に、シルバーのシンプルな指輪が嵌められた。
「こ、れ……?」
「霙は、オレのものだからね。こうしておけば、虫除けにもなるでしょ」
片方の口角だけが上がる翠之の口許。
蔑むような笑みを浮かべた翠之は、自分の左手の甲を僕に向けた。
薬指には、僕とお揃いの指輪がキラリと光っていた。
「絶対に、外さないでね。お風呂に入るときも、眠るときも」
僕の左手を取った翠之は、リングに口づける。
ふわりと上がった翠之の瞳が僕を見詰める。
その瞳は、絶対に放さない…と束縛の色を浮かべる。
「外さないよ。ありがとう。これは、……」
プロポーズ?
高揚する気持ちのままに、そう聞こうとして言葉を止めた。
そうだと認められてしまったら、僕は答えを返さなくてはいけない。
ずっと一緒にいようという約束なら、僕は安易に頷けない。
頷きたくても、頷いては、いけない気がした。
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