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初めての指の痛み
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2年も前、帝斗に会ったコトを覚えていたのは、初めて指輪の痛みを感じたからだった。
髪の隙間から見えた帝斗の切れ長の瞳に、心臓が、どくんとひとつ鳴る。
交わした視線に、瞳から心を侵食された気がした。
次の瞬間には、左手の薬指に痛みを感じた。
薬指の根元を何本もの針が突き刺さるような感触に、思わずそこを擦っていた。
白のハイビスカスを入れた花束を注文され、僕は指の痛みを押して、手を伸ばす。
最低限の会話に止め、視線は花へと固定した。
見てしまえば、もっと心を持っていかれそうな気がしたから。
花のバランスを確認する僕に、翠之が顔を出す。
僕を、奥へと下がらせた。
「なんで直ぐに俺を呼ばなかった?」
帝斗が立ち去ったあと、奥に顔を見せた翠之は、不機嫌極まりない声で僕に問う。
問われた言葉に、僕は首を傾げた。
「お前、フェロモン強くなってるぞ」
それは、僕が発情期でもないのに、発情しているというコトだ。
発情……?
最近は、発情期も軽く済んでいた。
全く関係のない時期に、そんなコトが起こるなど、思いも寄らなかった。
瞳を細めた翠之は、僕を睨めつけ、視線を背けた。
「あいつ、αだ……」
帝斗の居なくなった店の出入口を睨みつけながら、翠之は忌々しそうに呟く。
滅多に接するコトのない独り身のαに、Ωの本能が触発されたのか?
でも、視線を合わせ、一言二言、会話をしただけなのに、発情を誘発されるなど、…有り得ない。
どちらかと言えば、僕のΩのフェロモンに、独り身のαが欲情する方が有り得る話だ。
でも、……帝斗は、至って普通だった。
多少の顔色の悪さはあったが、それは、欲にまみれた雄の色ではなかった。
まるで[運命の番]に出会ったような自分の反応に、僕は頭を振るう。
帝斗は、何の反応も示していない。
αの方が、運命には敏感な筈だ。
僕ばかりが、惹かれ発情するなど、……有り得ない。
僕はαなど、好きにならない。
僕が好きなのは、翠之なんだ……っ。
苛立ちを隠さないままに、僕へと瞳を戻した翠之は、面倒そうに息を吐く。
「怪しいヤツが来たら、オレを呼べって言ってあるよね? 指、痛かったんでしょ? なに自分で対応しようとしてんだよ……」
翠之の言葉には、苛立ちを通り越した呆れが混じる。
「もう、表に出るな。…花の世話くらいならしてもいいけど、接客は、オレがする」
有無を言わさぬ翠之の言葉に、それ以来、接客はさせてもらえなかった。
翠之が居ないときは、店を開けるコトすら許されなかった。
それでも、翠之と一緒に花屋で働くコトは楽しかった。
翠之と一緒ならば、少しくらいの窮屈も、幸せだと感じていた。
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