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毟り取られる指輪
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僕の一人暮らしのアパートは解約し、花屋の奥にある居住スペースに生活拠点を移していた。
それでも、不定休の上に懇意にしている取引先もない花屋の収入で、2人が生活していくのは困難だった。
翠之が小さな頃から貯めていたお金を、生活費として切り崩していたコトは、知っていた。
だけど、僕にはお金を工面する方法も、宛もなかった。
翠之に頼るしか、なかった。
貯蓄すらも底を突きかけ、翠之は実家を頼った。
大学を辞めてから実家に帰っていない翠之のお金の打診に、母親が痺れを切らせた。
一度、帰ってきなさいと強く言われ、翠之が実家へと戻った日だ。
鉢植えの花を枯らしてしまっては不味いと思い、花屋へと趣き、表のシャッターを半分閉めたままに、水やりをしていた。
―― ガラガラガラっ
店先のシャッターが、荒く開けられた。
中を覗くスーツ姿の男に、僕は慌て声を掛ける。
「あの。今日は……」
「うちの息子を誑かしたこの女狐っ!」
休みだと伝えようとした僕の言葉を掻き消すような怒声が店に響いた。
男を押し退けた女性は、親の仇でも見るような鋭い瞳を僕へと向けていた。
うちの、息子……? 女狐…?
何が起こっているのか、その女性が誰のなのかを認識するまでに、時間がかかる。
カツカツと甲高いハイヒールの靴音を響かせ店内へと入ってきた女性は、水差しを抱える僕の手許へと向けた瞳に、怒りを増幅させる。
「あれ、外させてっ」
くいっと顎で指示されたスーツの男が、僕に近寄り左手首を掴んだ。
「ぃっ……何?!」
尋常じゃない力に引かれる左手に、抱えていた水差しが床に落ち、零れた水が床一面に広がる。
手首を掴んだままに背を向けたスーツの男は、僕の左腕を腹と腕の間に挟み込む。
左手の薬指に嵌まる指輪に手をかけた。
「…………っ!」
毟り取られた指輪に、指が千切れたのではないかというほどの激痛が、僕を襲う。
放された手首に、僕は薬指の根元を押さえ、蹲る。
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