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愛しているなら消えて
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「違……っ」
やっと絞り出した否定の声と共に、僕は頭を横に振るう。
「何が、違うって言うの?」
蔑みの瞳と、苛立ちの声が降ってくる。
「お金のため一緒にいた訳じゃない。…好きだから、…だからっ」
整理のつかない頭に、言葉がうまく紡げない。
そんな僕に、女性は呆れた声を上げた。
「抑制剤を買わせて、指輪も、こんな廃れた花屋まで買わせて……お金のためじゃないなんて、よく言えたものね」
知らなかったとはいえ、翠之がそれだけのお金を僕に使っていたのは事実だ。
ぐうの音も出なくなる。
どんなに、好きだからだと僕の感情を述べたところで、無意識に、翠之に貢がせていた事実は変わらない……。
「翠之にお金を渡せば、それはそのままあなたに使われる。火を見るより明らかなそんな終極に、手を貸すわけないじゃない」
馬鹿にするなと言うように、女性は言葉を吐き捨て続ける。
「あの子の人生を台無しにして、…翠之に寄生して、あなたがのうのうと生きてるなんて。卑しいにもほどがあるわっ」
散々に僕を罵り、少しばかりの憂さ晴らしが済んだかのように、女性は息を整えた。
「あなたがいるとあの子の…翠之の人生が狂うの」
すっとしゃがんだ女性は、小さな子に諭すように言葉を紡いだ。
「あなたが居なければ、あの子は名門の大学をちゃんと卒業して、翠聡(あきとし)さんの地盤を継げたのっ。ううん、今からだって遅くないわ」
頭を振るった女性は、ふふっと小さな笑い声を立てた。
「あなたに貢いだ分、あなたの身体で返してもらうわ。あの子のために、あなたは消えるの」
女性の言葉に、僕は驚きの瞳を向ける。
視線の先で女性は、優越の溢れる顔で微笑んでいた。
「あの子の事を想うなら、消えてくれるわよね? あなたは、あの子のコト、愛しているんでしょ? あなたさえ居なければ、あの子は、勝ち組になれるのよ。あの子のためなら、…好きな人のためなら、なんでも出来るでしょ?」
たとえ僕が、ここで嫌だとごねた所で、何も変わらなかっただろう。
だけど僕は、女性の言葉に納得していた。
僕は、消えるべき存在なのだ、と。
僕に、拒む権利などなかった。
…譲り受けたと思っていた花屋は、翠之が買い取った物だった。
抑制剤、指輪、そして、花屋まで。
いつの間にか、翠之に貢がせていた。
大学を中退させ、多額の貢ぎ物をさせ、…翠之の人生を、狂わせた。
翠之の人生を狂わせるコトしかできない僕。
母親に捨てられ、父に見放され、恋人の人生を台無しにするコトしか出来ない僕。
そんな僕には、消えるという選択肢しか残っていなかった。
僕は、彼女の手により、暗城家に……売られた。
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