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温かくないけど柔らかい
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従業員の出入口である、上階に繋がる扉をちらちらと窺う。
ウゥーンっと鈍い音を立て開いた自動扉から、帝斗が入って来た。
はあぁぁ。かっけぇ……。
オレは、開け放たれている大部屋の扉の影から、帝斗を盗み見ていた。
熱烈な帝斗マニアの俺。
オレにとって帝斗は、雲の上の人、…憧れの存在だ。
例えるなら、アイドルと一緒。
アイドルは、ファン1人1人を認識などしていない。
俺が一方的に崇拝しているだけなので、帝斗が俺を認識しなくても、全然構わない。
「駒野っ」
自動扉の側に立ったままに、帝斗が声を放った。
「はひっ」
急に名を呼ばれ、驚きに噛んでしまった。
えっ? ぇ?!!
オレ、なんかやらかした?!
オレの馬鹿あぁっ。
ドキドキしながら、帝斗の傍へと足を進めた。
そろそろと近づくオレに、瞳を据えた帝斗もゆるりとこちらに近づいてくる。
「暗城から1人、買い取る予定だ。面倒を見てくれ」
言葉にオレは、帝斗をぽかんと見上げた。
……買い取り?
暗城家からのレンタル品を買い取るから、オレに面倒を見てほしい、と?
「白糸 霙。お前は霙の隣の部屋に移動しろ。別館の社員寮だ」
暗城家からレンタル品が、社員寮に運ばれるなんて、今まで前例がない。
それに、霙の名を口にする帝斗の瞳が何だか優しく感じた。
何年もの間、帝斗ばかりを追い掛けていたオレは、その微かな変化に気付いた。
決して、温かな顔ではない。
それでも、帝斗にしては珍しい柔らかな表情だ。
その顔は、霙が大事な存在だと物語る。
帝斗のために、オレはその人を守らなければいけないのだと、直感した。
「お前が受けている治験は、中断しても構わない」
「いえ。問題ないです。何の副作用もないので、治験と並行できます」
被せるように放った言葉に、帝斗の瞳が柔らかさを増す。
「お前はβの割に、優秀だな」
ぽんっと頭に乗せられた手。
フラットに紡がれた言葉に、温かみはない。
微笑まれたわけでも、甘やかされた訳でもない。
それでも、オレには充分なご褒美だった。
帝斗の意識に、オレが認識されているコトが嬉しくて堪らない。
帝斗は腕時計へと視線を落とす。
「2階の東の端が霙の部屋になる。30分後、霙を専務室に連れてきてくれ」
「わかりました」
帝斗の瞳を見詰め、深く頷いた。
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